吸魔〈すいま〉 11 - 15


(11)
アキラは出水を睨み付けたままだった。
「…僕につき合ってくれますよね、アキラ君」
下の名で呼ばれる事にも嫌悪を感じ、アキラはおし黙ったままだった。出水は肩を竦めた。
「…困りましたね。君のようなタイプには、やはり最初に本人の同意がないと暗示が
どうしても途中で解けてしまうんですよ。」
出水がそう話す間にも体に少しずつ力が戻り、アキラは逃げようとした。
「アキラ君の事は諦めて、やはり今後もヒカル君から血を貰う事にします。」
アキラの動きが再度止まる。両手を握りしめ、出水を見据える。
「気にしないで下さい…今から君のここでの記憶も消します。君は普通の生活に
戻れます…。それでは、少しの間動かないでください…。」
出水がアキラの目を覗き込んだ。
「…待って!」
アキラは歯噛みをしながらも両手を力無く下げる。
「…進藤には…手を出さないで…。…それだったら…」
出水の目がアキラの反応を予測していたように細まり、うんうんと聞き入る。
「…僕につき合ってくれるのですね?…声に出して言ってみてください。」
「…あなたに…つき合います…。」
「それではもう一度訪ねます。…あなたの血を少し頂けますか…?」
返事をする代わりに左手を出水の前に突き出した。出水はニコリと笑むとさっきと同様に
小指の根元を銜える。出水はアキラの目を見、アキラも睨み返したままだった。
「…!」
何か太い針を深く突き刺されたような強い痛みが、アキラの左手に走った。


(12)
それは異様な感触だった。血を吸われているというより、傷口から滲み出る血を舌で
舐め取られているといった感じだった。それよりも途中から差し込まれたところから
何かを体内に注入されているような嫌な感触がした。その直後に体から力が抜けた。
アキラの膝が折れるより先に出水が脇の下に腕を入れてアキラの体を抱え支えた。
一度抜けた力が再び体に戻った時には、完全に出水に逆らえなくなっていた。
「…では、僕と一緒に来て下さい。」
「…はい…。」

タクシーに乗り、閑静な住宅街に入る。都会の中でも比較的古くからある大きな家が
建ち並んでいた。その一角で2人は降りた。タクシーに乗るまでも降りてからも、
吸い寄せられるようにアキラは出水の後を大人しくついて歩く。彼が強制的に
男に連れられているとは、誰も思わなかっただろう。
やがて特に大きな、古めかしい洋館の前に着き、出水は錆びが出た門を開いた。
「…どうぞ。」
昼間なのに周囲に人影はなかった。心の全てで逆らいたかったが、体は足を進めた。
暗い廊下を渡り、少し手狭まな応接室に通された。
「腰をおろして休んで下さい。」
言われるがままにアキラが椅子の一つに腰掛けると、出水が軽くアキラの額に
手をあてた。とたんに、体にまとわリ着いていた圧迫感が消えて解放されたように
なった。アキラはすぐに立ち上がってドアのところに駈けたが、ドアは開かなかった。


(13)
回らないドアノブに失望するようにドアに肘から先でもたれ掛かり額をつけるアキラを
囲うように、背後から出水が壁に両手を着く。
「僕らの種族にはいろいろあってね…、相手に気付かれないうちに精気を吸い取れる者と、
僕のようにそれが出来ない者といるんだよ。その代わり僕の家系は催眠の技術を
修得した…。」
アキラは「聞きたくない」というように首を振る。果てしなく悪い夢を見続けさせられている。
「もちろん、相手は吟味して選ぶ。良い血を獲れば長い間飢えなくて済むからだ。
ヒカル君のように素直で明るい者、君のように美しく意志が強い者の血を…ね。」
「…だったら…」
ほとんど耳に息を吹き掛けるようにして語る出水にアキラは振り返る。
「…だったら、とっとと催眠術でも何でもかけてボクを眠らせて、分からないうちに
血を好きなだけ吸えばいい…!」
「そんな事は…僕は君が気に入ったんです…。君の反応をもっと楽しみたい。」
出水はそう言うと、絶望したように視線を落とすアキラのスーツの上着に手をかけた。
「!何を…!」
アキラがハッとなって、上着を両手で抱え込む。
「僕は不器用でね、服を汚さないように血を吸う自身がないんです。」
「…手からじゃ…ないのか…?」
「さっきのは暗示の為にほんの少しお互いの血を交わしただけなので。」
「血を…交わす…?」
「暗示は互いの交じらいが深い程よく効きますから。言葉を交わす、血を交わす、
…体液を交わす…とかね。」


(14)
そう説明しながら、出水はアキラの顎を持ち上げると突然唇を奪ってきた。
驚いたアキラが出水を押しやろうとするがびくともせず、舌を強く吸われ、だ液を
流し込まれた。身長差でほとんど真上を向けさせられたアキラの咽は嫌でもそれを
飲み込まされ、その状態がしばらく続いた。アキラの体から力が抜けるのを待って、
出水はアキラの上着を脱がせた。ネクタイを外し、シャツのボタンを外す。
「…やめて…!」
意識ははっきりしているのに体が動かず、シャツをはだけられて胸元まで白い肌を
露にされて、アキラはただ出水にそう懇願するしかなかった。
「…細い首だ…。」
出水はアキラの耳もとから肩までをゆっくりキスを重ねていく。くすぐられるような感触に
アキラの肌が泡立ち、声が漏れる。数回行き来した後、出水はアキラに小さく耳打ちした。
「今度はさっきより少し辛いですが…我慢してください…。」
首の付け根のところに口を当てる。
「お願い…やめ…」
小指の時の数倍に近い鋭い痛みが、首筋に走った。
「あああっ!」
太い針が首から体の深い部分へ突き通っていくような激しい苦痛にアキラは呻いた。
わずかでも動けば内部をさらにえぐられそうで、アキラは身を硬くしたまま耐えた。
今度ははっきりと血を吸われる感覚があった。それは何とも言えないおぞましいものだった。
折れそうに細いアキラの首を捕らえ、アキラの体を抱きかかえ恍惚とした表情で出水は
アキラを吸い続ける。だがすぐに、いけない、と呟くように口を離した。傷口を癒すように
舌で愛撫し、ぐったりしているアキラの体を抱きかかえると奥の部屋へと運んだ。


(15)
抱き上げられ体が宙に漂うような感覚の中でアキラは自分が運ばれる先を見た。
「…どこ…へ?」
出水がアキラを抱えた右手で応接室の奥のドアのレバーを下げ、体で押すようにして
開いた。幾分か広く薄暗いその部屋の中央には古めかしい大きめのベッドがあった。
それを見て、アキラは小さく悲鳴をあげた。
「な…んで…!?血は…もう…あげたじゃないか…!!」
「食事は時間をかけてゆっくり楽しむ主義なので…。」
出水はベッドの中央にアキラを横たえた。僅かに抵抗するようにアキラは出水の
上着を握っていたが、出水に手首を握られ、外された。ほとんど脱げかかっていた
シャツも取り払われた。出水も上着を脱ぎネクタイを外すと、ギシッと音をたてて
ベッドに上半身裸で仰向けに横たわるアキラの上に覆い被さるように四つん這いになり、
姑くの間自分の獲物を眺めていた。
艶やかに広がる黒髪や少し青白い薄い形の良い唇を指で辿る。
「…僕は今まで、こんなに人を美しいと思った事はありません…。」
自分を睨みつけている澄んだ目の目尻と意志の強さを表すはっきりした眉をなぞる。
そしてもう一度軽く唇を重ねると、アキラの両手首を握って押さえ込んだ。
「…いいですよ、動いても。」
「…!」
とうぜんここで暗示を解かれても完全に出水の体に組み敷かれ、ほとんど身動き出来ない。
何度も出水のコントロール下に置かれて弄ばれ、アキラは苛立ち怒りを露にしている。
その怒りで呼吸が荒れて上下している白い胸に、出水はそっと舌を這わし始めた。
顔を背けたままのアキラの上半身がビクッと震えた。そんな反応を楽しみ、もっと引き出そうと
するかのように、なだらかな平面に淡く色付いた小さな突起の片方の周辺を攻めた。



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