浴衣 11 - 15
(11)
進藤の指が僕のあごを捉える。
優しく上向かれ、優しく唇を吸われる。
身体中に小刻みな震えが走った。
「塔矢が凄い碁打ちだってことを知ってるのは、俺の他にもたくさんいるけど、塔矢がこんなに感じやすいなんて知ってるのは、俺だけだ」
「進藤、なに馬鹿なことを……あっ――」
抗議は、最後まで言葉にならなかった。進藤が深く口付けてきた。
甘い刺激に、僕の全身から力が抜けていく。
進藤の膝が浴衣の裾を割り、僕の足の間に入りこんでくる。
「し、…しんどっ……」
進藤の太股が僕の性器に触れた。それだけで、僕は精神的には達していた……と、思う。
「塔矢?」
進藤に瞳を覗き込まれて、僕は二重の意味で真っ赤になっていた。
顔を背ける。いまは見て欲しくない。
君に触れてもらっただけで、こんなにも浅ましく喜んでいる自分を知られたくない。
「どうした?」
「なんでもない……」
「顔、隠すなよ」
隠せるものなら隠したい。
「風呂、はいろう」
消え入りそうな声でそう告げると、進藤の腕が動いた。
僕の内股を、進藤の手が撫で上げる。でも、そんな接触でさえ、僕の身体は反応を見せる。
もう片方の手が、背中で帯を解いている。
するりと、帯が落ちた。喉もとに口付けた進藤は、僕の鎖骨に舌を這わせた。
肌蹴た合わせを進藤は顔で暴いていく。なんて横着なんだ!
でも、その間にも片手と足を使って、進藤は僕の下着を下にずり下げ、もう片手は浴衣の裾を捲り上げ、尻の辺りをまさぐっていた。
(12)
乳首を吸われ、立っていられなくなった。
洗面台に体を預け、進藤の愛撫に身を任せる。
軽く閉じた瞼の裏に、神社の暗い水場で、僕の足の指をしゃぶっていた進藤の、あの唇が思い出される。
一度は無理矢理鎮めた熱が、凄まじい勢いでよみがえる。
「進藤―――」
全身の血液が、ただ一点に集まっていく。
「進藤………」
自分の声に煽られる。
僕はなんて恥ずかしい声で、彼の名を読んでいるのだろう。
「塔矢、……ヒカルって呼んでよ」
進藤の熱い呼吸が、僕の勃ち上がった性器にかかる。
君はどこに向かって話しかけているんだ!?
「進藤じゃなくて、ヒカルって……呼んで」
それはもう命令だった。
そう言う君こそ、いまだに僕を苗字で呼ぶじゃないかと怒鳴ってやりたかったが、そんな余裕はもう僕に残されていなかった。
「ヒカル!」
甘い声でも、優しい声でもなかった。
切羽詰った僕は、叫ぶように彼の名前を呼んでいた。
「ヒカル、……ヒカルっ……!」
進藤の舌が、僕の性器の先に触れた。透明な雫をこぼしているだろう鈴口の辺りで、ピチャピチャと濡れた音が途切れることなく聞こえたてくる。
「ヒカルぅ………」
僕のペニスが、進藤の柔らかい粘膜に包まれた。
自分では再現することのできない快感が、そこを中心に全身に広がっていく。
「ヒ……カァ……………ん」
精神的に、散々高められていた僕は、あっけなく進藤の口になかに欲望を迸らせていた。
(13)
「きて」
進藤が僕の手をとり、いつの間にか溢れていたバスタブへと誘う。
派手にお湯を無駄遣いして、僕と進藤はぬるめの湯の中に身体を浸した。
「ここ……」
進藤が、僕の右腕の内側を指さす。
「あれ…、いつ食われたのかな…」
赤い虫刺されのあとを指で擦りながら、僕がそう言うと、進藤がプッと小さく吹き出した。
「なんで笑う?」
「いや、……塔矢、それ痒い?」
「ううん、別に痒く……ぁ…」
それがなんなのか、やっと理解して、僕は口ごもる。
そんな僕の胸元に、進藤が後ろから腕を伸ばし、指を這わす。
「確か……ここと、ここにも………」
点々と身体に散った赤い鬱血の跡。
「印だよ」
進藤は小さな声でつぶやいたはずなのに、風呂場に反響して、やけにはっきり僕の耳に届く。
「塔矢が俺のものだって、印だよ」
ドキッと、鼓動がひとつ大きく乱れる。
僕は吐息と一緒に身体中から力を抜いて、進藤の右腕にそっと頬を預けた。
いつも羨ましく思っていた、進藤のしなやかな筋肉が、僕の頭を受け止めてくれる。
男の自分が、男の進藤を好きになる。
それは自分が女になることだと、畏れてきたけれど。
そうだね。
それじゃ、進藤の気持ちまでは説明できない。
「好きだ」って言われる事を待っていた。
男同士だからと、臆病になっていた。
むずかしく考える必要なんてなかったんだ。
僕の有りの侭で、進藤を好きだと素直に認めるだけでいいんだよ。
(14)
「好きだよ」
自然に言葉がでた。
きっと、僕の胸を開いたら、進藤が好きって気持ちでいっぱいなんだ。
そのひとつが、ポロリと零れたんだ。だって、このぬるいお湯は、そんなこと口走りたくなるぐらい、気持ちいい。
ポチャンと、水音を響かせて、進藤の腕が僕を抱きしめる。
「俺も塔矢が好きだ…」
答は耳にじかに囁かれた。
進藤は後ろから両腕を交差するようにして、すっぽりと僕の身体を包んでいる。
僕の背中は、進藤の胸にピッタリとあわさっている。
「好きだ」なんて、いまさらながらの告白のあと、腰のあたりに当たるものがある。
お湯のおかげでその熱まではわからなかったけれど、それが確かな質量を持ちはじめていることは察せられた。
ドキドキと鼓動が早くなるのは、お湯のせいだけじゃない。
体操座りの僕の両足はピッタリと合わされていた。そこを進藤の右手の指が行ったり来りを始める。
「塔矢、足開いて」
当然といった感じで、進藤がささやく。躊躇っていると、進藤が意地悪を言う。
「俺のこと好きなら、足開いてよ」
狡い、狡いと、心の中で喚きながら、それでも僕は足を開いていた。
するりと、進藤の両手が狭間に滑り込む。
左手が僕自身を緩く握り、右手がその下へと潜り込む。
まだ熱く痺れているそこを、進藤の指が突っついている。
「また痛くなるかな?」
「痛くてもいいんだ……」
「痛かったら言えよ」
(15)
えっ! ――と、驚く間もなく、熱い湯をまとった指が僕の中に入ってきた。
「進藤!」
「痛い?」
左手は、僕の器官をゆっくりと扱きはじめている。潜り込んだ指は、躊躇いもなく例の場所を探り当てる。
「ここって、精子を作るとこと隣合わせなんだよ」
だからなんだよ! と、怒鳴りつけたかったけれど、だらしない僕の身体は敏感に反応していて、下手に口を開けばどんな声が溢れ出すかわからない状況だった。
まだ身体の中に色濃く残っていた射精の余韻が、いっせいに騒ぎ出す。
覚えたばかりの官能が恐しくて、僕は逃げるために腰を浮かしていた。だけど、進藤がそれを許すはずもなく、かえって僕は彼の太股の上に座る形になってしまった。
それは進藤の両手に、自由を与えたようなものだった。
「しん……どっ…、お湯が……」
帰ってくる答は、背中で聞く早鐘のような鼓動と、うなじにかかる荒い呼吸だ。
「ヒカルだろ?」
もう、言葉にならない。
「ふぅ…うっ……あぁ……」
進藤の指が、執拗に僕を犯す。
前で動いていた左手は、いまは一種の戒めだった。僕の絶項が近づいたのを感じるたびに、親指と人差し指は環を作り、痛みとともにそれを堰き止める。
風呂場に充満するのは、白い湯気だけではなくなっていた。僕の甘い喘ぎが反響し、それさえもが僕を耳から犯す。脳髄を蕩けさせる。
やがて、進藤がささやいた。
「いい?」
それがどちらの意味で尋ねられたのかはわからなかったけれど、僕は必死になってうなずいていた。
お湯の浮力を借りて、進藤はの右腕一本で、僕の身体を軽々と扱う。
少し身体が浮いた。
と、思う間もなく降ろされる。
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