チャイナ(タイトル未定) 11 - 15


(11)
「おいでよ」
アキラに手招きされるままに誘導され、ヒカルはある部屋に連れて来られた。
「でもここって……お前のお母さんの部屋なんじゃねぇの?」
ヒカルは塔矢家の間取りを完璧にとは言えないが把握している。
だが、実際入った事があるのは居間とアキラの部屋、トイレと風呂(……)くらいのものだ。
襖を開けてずんずんと中に入るアキラの足取りには躊躇いが無い。
「ここの部屋にしか大きいのはないから」
「え?」
ヒカルがまだ部屋に入らず襖の所で小首を傾げていると、いいからおいでよ、とアキラが手招きした。
アキラの傍まで歩いて行くと、彼は壁際にある何かに上から垂らされている布を後ろへ捲った。
右側にある留め金を外して、重ねてある扉を左へ、そして右へと開く。
ヒカルが口をへの字にして言った。
「……嫌がらせかよ」
それは三面鏡の姿見だった。
「だって、折角だから自分の目でも確かめておいていいだろう?」
「お前が先に見ろよ」
口を尖らせて拗ねるヒカルが可笑しくて、アキラはくすくすと笑った。
「言われなくても、鏡を開く時に見たよ。言われる程似合ってるとは思わなかったけど」
「おれだって似合わねぇよっ!」
「それは見てから言うんだな」
言いながら逃げ腰のヒカルの手を引いて鏡の前に立たせる。
逃げないようにする為か、更にヒカルの腰に両手を添えた。


(12)
「〜〜〜〜っ、やっぱ似合わねぇじゃん!」
「そうかな? ボクよりは似合ってると思うよ」
「何言ってンだよ! どう見たってお前似合い過ぎだろ!?」
それは結局価値基準等の問題であって、第三者からすれば両者とも基本的に違和感が無い事には
変わりなかったのだが、両者とも男として沽券に関わると言わんばかりに反論しあう。
しきりに言い合った後、二人は共にハァハァと荒い息を吐いていた。
酒の所為で息が上がりやすくなっているのかも知れない。
「……なんでこーゆー時には引かないんだよ。大人気ねーな」
「引くも何も…ボクは君にその服が似合うっていってるだけだろ。
 それがボクの素直な気持ちなんだから仕方ないじゃないか。
 嘘をつかなきゃいけない理由なんてどこにもない」
「似合わねぇってんだろ!」
「だから! それはキミの主観だろう? ボクが似合うと思うのはボクの主観の話だ!」
話が平行線を辿っている事は重々に承知しているのだが、ここまでくるとお互い引っ込みがつかない。
アキラが大仰に溜め息をつくと、ヒカルを背後から羽交い締めにした。
「お、おい、ちょっ…塔矢! 何すんだよ!?」
ヒカルがわたわたと両手で宙を掻くと、アキラがぞっとするような低い声で言った。
「もう一度鏡を見ろ」


(13)
「う……あのな、オレは自分の言った事取り消すつもりはねーぞ」
「別にいいよ、取り消さなくても」
ヒカルの頭に疑問符が浮かんだ瞬間、首筋に熱い感触があった。
アキラが背後からキスをしているのだと気付いたのは正面の鏡が視界に入ったからだ。
そして隙を狙ったように、釦の開いた胸元に指が滑り込む。
いつの間にか上二つだけでなく残り二つの釦も全て外されていた事には気付かなかった。
「と…ぉや、やめ…」
不意に先程与えられた乱暴な愛撫が脳裏を掠めて、身体の方が反応してしまう。
ぴくんっと舌先の動きにあわせるように震えた躯に、アキラは含み笑った。
笑われた──そう気付いたヒカルの頭は羞恥と怒りに染められた。
悔しい。悔しいのに躯が抗う術を忘れている。
みっともなく膝は震え(酒の所為もあるだろうが)、手は振り解こうとしているはずなのに、
鏡を見るとどう見てもアキラの腕に力無く添えられているようにしか見えない。
──畜生。こんな身体になっちゃったのも、全部全部塔矢の所為だっ!
獣のように啼く事しか出来ない口の代わりにせめて、とヒカルは頭の中でアキラに
思い付く限りの罵詈雑言を浴びせた。
「……何か言った?」
「うぁっ…!」
アキラが胸の突起を強く捻り上げ、ヒカルは苦痛に呻く。
その際に身体が大きく震えたのは、その時身体に起きた衝撃によるものだけではないだろう。


(14)
胸元を弄る手は徐々に大胆になっていき、横についていたファスナーを下ろすと合わせの部分がだらしなく捲れ落ちた。
「あ……」
肝心な部分には触れようとしないアキラのもどかしい愛撫に、ヒカルは堪らずに膝を擦りあわせた。
意識している訳ではないが、思わず身体が前屈みになってしまう。
と、ずっとヒカルの腰を抱いていた左手が、下腹部へと滑った。
思わずヒカルは背を丸めて、やがて来るであろう快楽の波に耐えようとしたが、それはなかなか来ない。
アキラの手は何度か指先で触れるか触れないかの繊細な愛撫を下腹に施した後、ヒカルの左半身、脇腹からゆっくり下降してゆき、スリットから覗くしなやかな腿を撫でた。
「ッ、塔矢……!」
咎めるようなヒカルの声を無視したままその手は内腿に滑り込み、何度も膝と胯の間を往復して、無駄にヒカルの感覚を昂らせる。
欲しいものが与えられない苦しさに、ヒカルは力無くアキラの腕に爪を立てた。
「欲しい?」
熱い息と共に耳に吹き込まれた言葉に、ヒカルは微かに啼いた。
アキラの指がヒカル自身を包み込んだ布を絡め取り、そのまま膝まで落とす。
そして、アキラは自分から逃げるように身体を竦めているヒカルを強く抱き直すと、その身体を反り返らせるように上半身を引き寄せた。
耳許でくくっ、と押し殺したような笑いが聞こえてヒカルが涙に濡れた瞳を瞬かせた。
やがて彼は、ぼんやりと映る視界の中に酷く淫猥なモノを捉えた。
チャイナドレスの短い裾を持ち上げ勃起している、鏡に映った自分自身の姿を。
『それ』は、アキラからの愛撫を待ち焦がれ、既に先走りの液体にまみれていた。


(15)
「あ…あ、ぁあ……っ、やぁあ……っ」
覚醒する意識と共に激しい羞恥がヒカルを襲う。
その膝から一切の力が抜けて、ヒカルはその場に崩れ落ちた──かに見えた。
が、寸での所でアキラが抱き止める。
俯いたヒカルが引き攣ったような呼吸を繰り返す度に、涙がぽたぽたと零れ落ちた。
アキラが畳の上にゆっくりとヒカルを降ろした時も、ヒカルはまだ、乱れる呼吸を整えるのに精一杯だった。
アキラの手がヒカルの膝に引っ掛かったままの布地を取り払った事さえ、ヒカルは気付かなかった。
「進藤、今自分がどんな格好をしているか解ってる?」
「────?」
元々前に崩れ落ちそうになった所を無理矢理後ろに引き倒されて、尻餅をつくような格好にされたのだ。
背中はアキラに預けられ、当然の事ながら膝は立ったまま──。
「……!」
ヒカルは慌てて膝を閉じようとしたが、その間に素早くアキラの手が割って入った。
「駄目だよ、折角良い眺めなのに」
そして、それだけでは飽き足らず、両の膝を左右に広げる。
「…っにすんだよ、この変態ッ……!」
膝裏から腕を回されがっちりと押さえられては、流石に足を閉じる事は叶わない。
ヒカルはあまりの恥ずかしさに顔を歪めて言い捨てた。
「言っておくがボクを狂わせてるのはキミの方だ。自分自身の目で確かめてみろよ、
如何に自分が淫らな人間かって事を」



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