平安幻想異聞録-異聞-<水恋鳥> 11 - 15
(11)
下肢は佐為を飲み込んで高く掲げられたまま、奥を付かれるつど、ヒカルは
冷たい床に頬を押し付けて、喘ぎ声を上げる。
船を漕ぐにも似た動きで、ヒカルを揺らしながら、佐為は最後の頂点に押し上げて
やるために、そのヒカルの細い腰に手をやった。それはさすがに本物の女性ほどには
細くはないが、それでも、高い位置で綺麗にくびれて引き絞られ、その腰の奥に、
自分の一部が入り込んでいるのだと思うだけでも体が熱くなる。
ヒカルの下肢をしっかりと固定して、強く揺さぶる。
佐為の律動に会わせて、鋭い悲鳴のような嬌声が立ち始める。
床に上体だけうつぶせるヒカルの手が、何かを求めてさまよっていた。
佐為は腕の伸ばして、そのヒカルの手を取り、指に自分の指をからめてやった。
ヒカルが、喘ぎながら肩越しにこちらとチラリと見て、嬉しそうに笑った。
佐為の背をゾッと何かが走った。
自身の中の荒ぶるものを刺激されて、全身が火照る。
蠱惑的な、まるで、男をかどわかす魔物の笑みだ。
佐為は、少年の肉壁の中に埋められた自身が、益々固く猛々しさを増すのを感じた。
その佐為の変化を敏感に受け止めて、絡められたヒカルの指に強く力が込められる。
喘ぐのに忙しく、口を閉じることのできないせいで唇が乾いたのか、ヒカルが舌で唇を
湿らすのが見えた。
いつもなら、着物なりなんなりを口に含みたがる頃だ。さっきは無理にそれを防いで
ヒカルを困らせてしまったので、その詫びのつもりで、佐為は指を絡めているのとは
反対の方の手の指を、少し自分でなめて湿らすとヒカルの口元に寄せる。
唾液のついた指先でヒカルの唇をたどり、湿らせてやる。それから、そっと人差し指と
中指を二本、口の中に侵入させた。
「噛んでいいですから」
言うと同時に、抽挿の速度を急激に速めた。
ヒカルの上体が激しく揺れて、喘ぐ声も責められる動きに合わせて間隔が短くなる。
指に軽くヒカルの歯が立てられたが、ヒカルは快楽を追う中にもそれが佐為の指だと
意識しているのだろう。あまり強く噛まないように加減してこらえているのがわかる。
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その分、止められない声が漏れ、口を閉じることもかなわないので、嚥下できない
唾液が口腔内の佐為の指をつたって糸を引きながら床に滴ちた。
ヒカルの舌が、その自分自身の唾液を舐め取ろうとするように、佐為の指にまとい付く。
陰茎への口淫を連想させるその仕草に、佐為の方が先に我慢できなくなってしまった。
ヒカルの体のより奥を何度か突き上げ、ヒカルに甘い悲鳴を同じ数だけ上げさせて
から、中に己の劣情を放つ。
その佐為の精をさらに絞り取ろうとでもするように、きつく中の壁を引きつらせて、
ヒカルも佐為の指を含んだまま、くぐもった声と一緒に、その実を弾けさせた。
ヒカルは佐為に後ろから抱きしめられたまま、肩で息をしている。
その内壁は快楽の余熱を持て余して、いまだピクリ、ピクリと中の佐為を締め付ける。
佐為は、ヒカルの口から指を抜き、自分の肩に羽織られたままの着物の袂から懐紙を
取りだすと、ヒカルが床に放ってしまった白い精液をふき取った。その上に体を
落としてしまったために汚れたヒカルの下腹部も拭ってやる。
「ヒカル、気持ち良かった?」
ヒカルは息を荒げたまま黙って頷いた。未練がましくその汗に湿った足を手の平で
辿る。なぜ、この少年はこうも佐為の中の荒々しい部分を煽るのだろう。意識も
しないうちに再びその気になり、固さを増している自身に苦笑しながら、佐為は
もう一度、ヒカルの中を軽く突き上げた。
「ひんっ……!」
ヒカルが背を引きつらせる。
佐為は、すぐ近くにぐしゃりと小山になった、ヒカルの脱いだ着物を少し向こうに
押しやった。
「少し、休みますか?」
「……だいじょぶ…」
ヒカルが小さく答えて、さらに付け加える。
「佐為とするの、好き」
愛おしさが身の内から溢れるような気がして、佐為はたまらずに、いささか
乱暴に抜き差しを開始する。
「あ……はっ……、あ、あ、あ、ふぁっ!ん!」
佐為の律動に会わせて、ヒカルの喉の奥から、弾けるように音が零れる。
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達したあとの体の痺れも取れないうちに再開された律動に、ヒカルの体の方が
先に走り出してしまう。
ヒカルは先に引き続き後ろから責められて、佐為の名を呼びながら床にしがみ
つくようにしている。
「佐為……、佐為……っ、佐為っっ、お願いっ!」
「…ヒカル?……」
佐為も早い呼吸の合間に答える。
「佐為、前から……っ! 佐為の顔、…見ていきたい……っっ!」
愛らしい懇願に、佐為は胸がいっぱいになって、すぐさま自身をヒカルの中から
引き抜き、少年の肉付きの薄い体を返し、前から抱きしめ直すと、その華奢な
体を深々と貫いた。
「はんっ!ひぁぁぁぁっ!」
佐為は締め付けてくるその中の熱さを感じながら、ほつれたヒカルの前髪を
唇でかきわけて額に口付け、それを手初めに、ヒカルの体に口付けの雨を降らせて
ゆく。あるところは優しく触れるぐらいにとどめ、かと思えば、ある場所は噛んだ後が
赤く残る程にきつく。
その度に、ヒカルの口からせっぱつまったような声が漏れる。単に佐為の唇が
触れた場所からの痺れだけではない、口付けをしようと佐為が体をよじり、
曲げるたびに、中に銜え込んだ佐為のモノが微妙に角度を変え、ヒカルを狂わす
歓喜の波が背筋を走り登るのだ。
ヒカルの艶めいた声が、庵近くの山林で鳴く鳥達のさえずりに混じる。
だが、その声は、鳥のさえずりというより、むしろ雄を呼んで啼く牝鹿の声だと
佐為は思った。
揺さぶられる体を、佐為の首根っこにしがみつくように支えて、嬌声とともに
ヒカルが佐為の耳元で囁いた。
「あ…んん……佐為……、もしかして、オレの声、聞きたかった……?」
ばれていたのかと、瞠目して佐為はヒカルの顔を見た。
「どうして……、わかりました?」
「なんとなく……はぁっ……」
やはり、この少年に下手な隠し事はできない。
「最初から、言えばよかったのに……ん…」
「言えば、聞かせてくれました?」
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ヒカルが嬌声を飲み込むような仕草で頷いた。
「たまにはなぁ…、そういうのも、…いいか…なって……」
それでは遠慮なくと、佐為はヒカルの言葉に甘えて、より奥の壁を擦りたてる
ようにして、強く抜き差しした。
ところが、当のヒカルは先の言葉とは裏腹に、きつく唇を噛んでしまったのだ。
声を聞かせてくれるのではなかったのかと、ヒカルの顔をのぞき込めば
「意識したら、恥ずかしくなっちゃったんだよ」
と幽かな声で返事が返ってきた。
ならば、意識などしていられないほどに溺れさせてしまえばいい。
佐為は、ヒカルのからだのあちこちをついばむような愛撫を再開し、指で繊細な
感覚を呼びおこす。中も入り口から奥まで丁寧に責めて羞恥心を麻痺させてしまう。
徐々に、庵の中にヒカルの声が帰ってきた。
佐為の与える喜悦の波にさらわれ、自分が今どこにいるかも判らないほど感じきって
いるのが、そのふわふわした足先の動きでわかる。
ヒカルの右手がしっかりと佐為の首をかかえたまま、その左手が自らの乳輪に
伸びるのを佐為は見た。
すぐに理解する。すでに二度達した後だ。快楽ばかりが何倍にも強く感じられる
ばかりで、三度目ともなると男の体は達するまでに時間がかかってしまう。
苦しさのあまり、早く最後に行き着きたくて、思わず手が自分の性感帯に伸びたのだ。
ヒカルは佐為の下で、佐為の責めに悶えながら、自分で左の乳首をこねまわし始めた。
その淫猥な仕草を少し眺めてから、おもむろに佐為は唇にヒカルの右の乳首を含む。
「あ……あ!あぁっっ!あっっ!やっっん!」
身をよじるヒカルを押さえて、口の中の小さな固い果実の汁を味わい吸いたてる。
ヒカルの額から、玉の汗が噴きだした。
佐為は早くヒカルを楽にしてやりたくて、少年のまだ若々しい陰物に手を伸ばし、
包んでさすってやる。ヒカルがアゴを大きくそらして、右手の指を口に銜えようと
した。佐為がその手を捕らえて押さえる。
「ヒカル、声を聞かせてくれるんでしょう?」
と、囁いて再び乳首を口に含む
当のヒカルはその言葉を聞き取るどころではない。
右の乳首と、陰茎と、後ろの門と、一番直接快感を得る三つの場所を同時に強く
責められ、自分でも何かにつかれたように左の乳首をこね続けている。
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腹の底から次々と込み上げる淫声に、喉が震えている。
それでも。いきつく直前、ヒカルは「佐為の顔を見ていきたい」と言った言葉通り、
目を開け、熱に潤んだ瞳で佐為を見上げた。切なげな表情のまま、唇を動かす。
漏れる喘ぎに押されてそれは音にならなかったが、その唇の形が確かに「さ・い」と、
自分の名を形をかたどったのを佐為は見た。
最後までヒカルの甘い声を楽しむつもりが、どうしようもない愛情に突き動かされて、
その唇を自分の唇で塞いでいた。
ヒカルの熱のこもった腕に自分の体が強く抱きしめられるのを感じながら、佐為は
己の精を、最奥に放った。
互いの熱を放出し終わった後も、ゆるゆると唇を重ね、口腔を愛撫しあっていた
二人だったが、佐為の背にまわっていたヒカルの手が、突然ぱたりと床に落ちた。
驚いてヒカルの顔を見れば、深い寝息をたてて眠っていた。
何も口付けの最中に眠らなくても……と思いながら、佐為は抱きしめていた手を
ほどき、ヒカルをそっと床に寝かせる。
しかたがない。男同士の秘め事では、どうしたって女役をするほうに負担がかかる
のだ。
ヒカルの下肢をそっとぬぐって清めてやり、近くに丸められた彼の単衣と狩衣を
重ねて体に羽織らせてやる。汗が冷めていく体を外気にさらしたままでは風邪をひく。
自分も着衣を整えてたち上がり、外の様子を見に行く。
まだ明るい。
どこかでまた赤翡翠が鳴いた。山奥でも珍しい鳥だ。佐為も過去に数えるほどしか
その声を聞いたことはないし、姿に至っては書物でしか知らない。近くに巣でも
かけているのだろうか?
そういえば、赤翡翠が鳴くと雨になるという話を聞いたことがある。
考えながら、佐為は厩の方を覗きに行った。
厩の端に、まだほどかれていない荷物がおいてある。ひとつはヒカルの。ひとつは
自分のものだ。
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