金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 11 - 15


(11)
 「はぁ?」
門脇は絶句した。似合うかと否かと訊かれれば、「似合う!!」以外の答えはないだろう。
しかし………
 門脇がどう答えようかと逡巡していると、横から割り込む奴がいた。
「お〜似合う!似合う!」
ヒカルと同じくらい顔を赤く染めた和谷がケラケラ笑って、大きく手を叩いた。
「んじゃあ〜オレはコレ〜」
和谷はバニーガールの耳を頭にかぶって、ヒカルに見せた。
「和谷〜かわいい〜」
 二人で勝手に盛り上がるヒカルと和谷。 それを呆れて見守る三人、一人静かにだが着実に
空き缶を増やしていく越智。
「止めなくていいのかな?」
「酔っているヤツに何言ってもムダだと思う…」
「害はないみたいだからいいんじゃないかな…」
その時、背後で派手な音を立てて、何かが倒れた。
 空き缶に埋もれて、越智が潰れていた。
「あ!おい…越智大丈夫か?」
突然倒れた越智に慌てて伊角が駆け寄った。
「急性アルコール中毒かな?」
「違うだろ…とりあえず、濡れタオル持ってくる。」
ヒカル達のことより、越智の介抱の方が先決である。三人はあわただしく、動き始めた。


(12)
 そんな騒ぎは何処吹く風と、ヒカルと和谷は相変わらずケラケラと笑っていた。ヒカルは
セーラー服を前に暫く考え込んでいたが、唐突に、
「オレ、着てみちゃおうかな?」
と、少しはにかむように言った。
「お〜着ろ着ろ!」
和谷も無責任に煽る。
「オマエ、絶対に似合う!身体も小さいし、顔も女みたいだし…うん、着てみろよ!」
「うん!」
 ヒカルはTシャツの裾に手をかけると一気に捲り上げた。突然目の前に現れた白い肌と
薄い胸の上に乗っているピンクの突起に、和谷は赤い顔をますます赤くして、目を逸らした。
「オマエ…恥らいってもんはないのかよ〜」
「和谷を相手に何を恥じらうって言うんだよ……」
「それはそうだけどさ……」
「見たくないなら、後ろ向いてよ。」
「情緒ってモンが足りネエよな」とブツブツ言いながら、和谷は素直に後ろを向いた。

 暫くしてヒカルが声をかけた。
「いいよ。」
その声に和谷は振り返った。と、同時にヒカルがくるんと回った。スカートがふわりと舞い上がる。
「ジャーン!どう、似合う?」
「スゲー似合う…でもさ…」
と、和谷はちょっと言いにくそうに口籠もる。
「なんだよ?」
「トランクス………」


(13)
 ヒカルが下を見ると、確かにほんの僅かだが、スカートの裾から下着が見えていた。
「あー…」
ヒカルはスカートを持ち上げて、「イケてねえ〜」と頭を掻いた。その頭に、何かがこつんと
ぶつかった。
「それ使えよ。」
和谷が安全ピンを投げたのだ。
「それでパンツの裾折って、止めたらいい…」
「おし!」
 可愛く変身に再挑戦。しかし、スカートを捲り上げ、トランクスを折るその姿は可憐さとか
色っぽさからはほど遠い。
「色っぽくネエ…」
と言う和谷の愚痴をヒカルはワザと無視をした。

 「どうだ?」
トランクスを完全に隠して、ヒカルは再度和谷に訊ねた。膝上丈のニーソックスとミニスカートの
間にある物は白く眩しい太腿だけだ。
「……うん…スゲー可愛い…女の子に見える…」
和谷はうっとりと呟いた。
「ホント?おかしくネエ?」
「全然!」
力一杯頷いた和谷に、ヒカルは「エヘへ」と照れたように笑った。


(14)
 「じゃあ、外歩いても誰も気付かねえかな?」
「絶対大丈夫。女の子にしか見えねえモン。」
力強い和谷の言葉にヒカルは自信を持った。
「ちょっと、出てくる…」
と、ヒカルは玄関へと向かう。
「おー行ってこい!」
和谷も元気よく送り出した。


 伊角達が、頭にバニーの耳をつけたまま酔いつぶれて眠っている和谷と脱ぎ捨てられた
ヒカルの服を発見したのはそれからかなり後のことだった。

―――――――――――と、こんな長い長いいきさつを、ヒカルはかなり端折ってアキラに説明した。
 アキラに理解できたのは、研究会があったこと、宴会でお酒を飲んだこと、その勢いで女装を
したことだけだった。
………………だけど、やっと、わかったよ。
先程からの彼の怪しい言動の数々が…………。
「……要するにキミ…酔っているんだね?」
「酔ってねえモン…」
酔っぱらいの「酔ってない」ほど当てにならない物はない。それなのに、ヒカルはアキラに
顔を近づけて「酔ってない」と何度も主張した。
 間近に迫ったヒカルの顔はほんのり桜色に色付いて、目元はトロンと潤んでいる。柔らかそうな
髪からはシャンプーの香に混じって、微かにビールの匂いがした。


(15)
しっかり酔っているじゃないか…………
 アキラは小さく溜息を吐くと、ヒカルの腕を掴んだ。
「送っていくよ。和谷君の家はどこ?」
「え〜いいよ。それより、オレ、電車に乗りたい…」
電車に乗って、いったい何処へ行こうというのだ!?
ヒカルは自分の言動が怪しいだなんて、これっぽっちも思っていないようだが、どこから
どう見ても彼はおかしい。放っておくことなど出来るわけがない。
「ダメだよ!キミ、黙って出てきたんだろ?」
きっと、友人達が心配しているに違いない。そう窘めるアキラに、ヒカルはプッと、頬をふくらませた。
「黙ってじゃネエよ!ちゃんと和谷に言ってきたモン!」
「和谷君に………?」
 自信たっぷりに頷くヒカルを疑わしげに見る。さっき訊いた彼の話からは、他の友人達がどういう
状態だったのかまではわからなかった。ヒカルの話は酔っているためか、まるで要領を得ないのだ。
ただ、こんな彼を平気で外へ出すくらいだから、和谷の方もまともな状態だったとは言い難い
であろうことは容易に想像できた。
 ここに来るまでに、ヒカルは何度か声をかけられたと言っていた。何事もなかったから
よかったものの、もし、その相手が質のよくない奴で、ヒカルの情況に気が付いていたらと
思うとゾッとする。攫われて乱暴されていたかもしれないのだ。
 いや、それよりも、外見は可愛らしい女の子でもヒカルは本当は男だ。例え、貞操の危機に
陥るようなことにはならなかったとしても、騙されたと逆上した相手に暴力を振るわれる
可能性もあったのだ。
 だけど、ヒカルはそんなアキラの気持ちなどお構いなしに、しきりに「一緒に行こう」と
ねだっていた。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル