恋 Part 3 11 - 15


(11)
僕は身体を起こすと、僕は進藤の右足を肩にかけた。
なにもかもすべてを僕の目に晒している。
太股を撫で挙げ、進藤の身体に火を点す。
進藤の肌は赤ん坊の肌のように滑らかで、そのさわりごこちだけでも一種の快楽だった。
「あ……あぁ……、あっ」
腋の下から腰のくびれまで指を這わすと、悲鳴のような声が漏れた。
「くうぅ……あぁ…っ」
僕はもう一度ローションで指を濡らすと、ゆっくりと肛腔に押し当てた。
つぷっと音を立てて、淡く色づいたそこが僕の指を飲みこんだ。
「塔矢! 塔矢!」
進藤が慌てた声で僕を呼ぶ。
「指だよ。痛い?」
「痛くない、痛くないけど、あっ!」
僕は中で指を蠢かし、前立腺の場所を探した。
(精嚢の裏、根元まで指を入れて第二関節の辺り……)
にわかじこみの知識をお題目のように唱えながら、進藤の内部を探る。
人差し指では届かないのだろうかと、中指を添える。
指二本の悪戯に、進藤は眉を顰めたが、思いの他ほぐれているようで、ペニスが萎えることはなかった。
腸壁を探るようにぐるりと動かしたとき、進藤の腰が大きく跳ねた。
「ひあっ―――!」と、叫んでびくびくと身体を震わせる。
僕は同じ動きを繰り返した。
「あっ、あん……あ……んっ…ん……」
いままでになく甘い声が、続けざまに僕の耳に届く。
進藤の感じる場所を見つけたことが嬉しくて、僕はゆっくりとそこを確かめた。
熱くて柔らかな肉壁の向こうに、しこりのようなものがある。
それを指の腹で優しく弄う。
「あ―――、あ―――――――」
進藤が狂ったように頭を打ち振るう。
その乱れた様は、僕の中の熱までも、怪しく煽る。
僕の股間はずきずきと脈打ち、目一杯膨張していた。
早く進藤とひとつになりたい。
僕は身体をずらすと、進藤に優しくくちづけた。進藤が潤んだ瞳で僕を見る。
唇をわななかせあえぐ姿が美しかった。
この進藤の陶酔した表情を見ることの出来ない人間が、可哀想だとさえ思えた。


(12)

僕は進藤の頬にくちづけながら囁いた。
「挿れるよ――」
進藤の肩が震える。
「優しくするから、恐がらないで……」
絶え間ない愛撫に、進藤があえぎながら頷く。
僕は進藤のその部分に、自分の熱い固まりを押し当てた。
「力抜いて、…」
僕は腰を進めた。
思っていたより強い反発があった。進藤の身体が逃げないように腰を強く抱えこみ、さらに身体を進める。先端が進藤の身体の中にめり込む。
「あっ!」
進藤が鋭い声を漏らす。
「進藤、好きだ」
爪先が白くなる程シーツを握りしめ、激しい痛みに苦しそうな呻きを漏らしながら、それでも進藤は僕が好きだと告げると、何度も何度も頷いてくれる。
その姿が健気に思えて、僕は泣きたくなる。
自分があれほど欲したことが、こんなにも進藤を苦しめている。
理性はそう叫ぶのに、本能は止まらない。早く、進藤の中に自分を埋めてしまいたい。
そんな自分を、ぎりぎりの理性で押し戻し、僕はゆっくり進藤の中に自分を埋めて行く。
肉が軋む。
最初から受け入れるように造られていないその部分が、肉を引き連れめり込んでいく。
僕は半分ほど埋め込まれたそれを一回引き抜くと、今度は穿つように一気に突き入れた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ……………!」

それはよほど衝撃だったのだろう。
突っ張っていた進藤の両腕が一気に崩れ、金と黒の髪がシーツに広がった。
苦しげな呻きが、シーツに吐き出された。
「進藤、進藤、進藤…」
根元まで絞めつける進藤の身体に、僕は目も眩むような一体感を感じた。
でも、それは決して初めて知る快感ではなかった。


(13)
僕は理解した。
僕たちは、いままでに幾度も感じあっていたんだ。
碁盤を挟み、対峙することで、何度も心を交わしていたんだ。
持てる力のすべてを持って、相手が100手先を読めば、自分はさらにその先を読もうと、真剣に睨み合うとき、僕たちは誰よりもお互いを理解しようとしていた。
自惚れでなく、客観的事実として、僕たちの対局は注目を浴びていた。
実力伯仲と言われ、名勝負と謳われる、対局。
勝負は常に僅差で、それぞれが己の限界を超越することを望み、向き合う時。
あれに勝る快感はなかった。
いまのこの行為はその確認でしかない。
僕はそう思った。

「痛い…? 進藤」
喉の奥でくぐもった声だけが返ってくる。
「声…だして進藤、…力抜けば…楽になるよ…」
僕に促され進藤の口から「はぁっ……――」というため息が漏れる。
僕は腕を前に廻すと進藤のそれを握った。中途半端な形で堅くなっているそれに、ゆるやかな愛撫を加える。
「進藤…、感じて…」
進藤が僕の愛撫にあわせて、しゃくりあげるような声を漏らした。僕の手の中でたちまちそれは熱をましていく。
「動いていい?…」
シーツの上に投げ出された濡れた髪が頷くように動いた。それが悩ましい。僕は愛撫を続けながら、ゆっくり腰をつかった。
「うっ、ふぅ……」
進藤が、苦しげな息を吐いた。
僕は動きを止め、誰よりも大切な彼に目を留めた。
僕の下で、進藤はこぼれんばかりに眼を見開いていた。
その表情にあるものは、驚愕だった。
「進藤…?」
僕は、誰よりも愛しい人の名前を何度か口にした。
おそらく、僕はこのときの進藤を、一生忘れることができないだろう。
無防備でいとけない、進藤の表情を。

驚愕はやがて去り、代わりにそこに見出したものは、ここではないどこかを見つめる瞳。
一瞬の……、忘我がそこにあった。


(14)
「進藤、進藤?」
ぱちぱちと進藤が瞬いた。
「塔矢…」
やっと進藤の口から答えが返る。
それは夢から覚めたばかりの人のように、頼りない声音だった。
「進藤、痛いのか?」
「塔矢が、俺の……中にいる……」
その熱に浮かされたような言葉は、さらに僕の興奮をかきたてた。
「塔矢、動けよ。おまえが俺の中にいるのを、もっと感じさせてくれよ!」
僕の理性が弾け飛んだのは、このときだったと思う。
僕は身体を倒し、進藤の肩をつかんだ。もう彼を気遣う余裕はなかった。
逃がさないと抑えつけ、執拗に彼の内部を突き上げた。
「塔矢…、塔矢…」
進藤が盛んに僕の名を呼ぶ。
僕を根元までくわえ込み身体を震わせ、僕の名を繰り返す進藤。
「塔矢……」
「なに、進藤?」
「名…名前、呼べ…よ……」
「名前…?」
「ヒカルって……、名前…で……」
「……んっ、……ヒカル――」
その瞬間、進藤の媚肉がわなないた。
白い身体に汗がしたたり、欲望は確かな高まりを僕に伝える。


(15)
僕は抉るようにして進藤の内部を蹂躙する。
そのたび腸壁に強くこすられ僕の下腹部に快美感がわだかまる。
ゆっくり腰をひねりながら、何度も何度も進藤の中に自分を埋める。
より深く、快感を求め挿入を繰り返す。
僕に串刺しにされている進藤、という発想が僕をさらに絶頂へとあおる。
僕はいまにもイってしまいそうだった。
初めての結合をいつまでも貪っていたいという気持ちと、早く進藤の内部に自分の欲望を注ぎこみたい気持ちが、激しくせめぎあう。
僕は堪えるために進藤に話しかける。それは言葉による責めのようなものだ。
「いい? 感じる?」
進藤の白い背中がのけ反る。僕の言葉にかぶりを振る。
「気持ちいい? 進藤」
「あっ――!」
「進藤、声聞かせて」
「塔矢…」
僕の言葉に従順に従う進藤。
「塔矢…、…塔矢……ずっと…」
「進藤、もう一回、言って。聞こえな…い」
僕の動きが早まる。進藤の声が聞きたくてじれたように身体が疼く。
「一緒に…、塔矢……ずっと………」
その時、僕は幸せだった。
進藤が僕を受け止め、僕の動きに快感を覚え、僕に催促さえしている。
もう我慢できなかった。
僕の身体自身が進藤に加えられる刻印。
僕は激しく腰を動かした。自分の快感に素直に従い、進藤の華奢な身体を組み敷いて、頂点だけをめざして獣のように動いた。
閉じた瞼の裏に浮かぶのは記憶の中の進藤の顔。

進藤の全身が突然突っ張ったのと、僕が絶頂に達したのはほとんど同時だった。


このとき、僕は本当に幸せだったんだ。


*** part3 終 ***



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