祭りのあと 11 - 15


(11)
常に熱い視線でヒカルを見つめるアキラは、時折酷く嫉妬深く、残酷になることがあった。
例えばヒカルが自分の知らない誰かと楽しく話しているだけで、強姦とも言えるような行為をしたことがあった。
誰とでも気軽に話せるヒカルにとって、それがアキラをどれだけ苦しめるものなのか、全く予測がつかない。
たまたま話が合う人だったから親しげに話していただけなのに、まるで浮気でもしたかのように責められる。どんなに説明しても、自分を信用ぜすに嫉妬心丸出しで束縛してくるアキラを鬱陶しくさえ思った。
ヒカルにはそれが、自分を愛するがゆえの行為だとわからなかったのだ。
アキラの行動を理解できないヒカルは、暴れたり罵声を吐いたりして抵抗するしかなかった。
それが更に誤解を与える要因になるとも気付かずに、ヒカルは抵抗する。
そんな態度のヒカルに、アキラはどんなに泣いて嫌がっても聞き入れる耳をもたなくなってしまった。
しかしそれでもヒカルは、アキラの言う通りにするように努力した。
それは何をされるかわからない恐怖からというよりも、アキラのことを慕う気持ちがまだあったからだ。
まっすぐ自分だけを見つめてくるアキラに応えようと、ヒカルなりに努力した。
けれどアキラの強姦紛いの行為はエスカレートするばかりで、ヒカルの努力など無に等しかった。
自分を信じてくれないアキラを、次第に性欲のはけ口としか思われていないのだろうかと泣いた日もあった。それでもヒカルはアキラからはなれようとはしなかった。
なぜなら、アキラが本当は優しいということを知っていたからだ。
今日だって、花火大会の屋台で欲しいと思ったものを察して何でも買ってくれた。帰りの混み合った車内では、人ごみで押しつぶされないよう、汗だくになって守ってくれた。
そういったさりげない優しさをもっているアキラが、どうして乱暴なことをするのか、ヒカルには理解できなかった。


(12)
ヒカルは困惑しながらもゆっくりと脚を開いた。
しかし恥ずかしさといらだちから、尻を突き出すことまではできない。
「聞こえなかったのか? 尻をもっと突き出せと言っただろう。それともボクにけんか売っているのかい?」
アキラはそう言うと、まるで腕まで入れるかのような勢いでヒカルの尻の穴に手を突っ込んだ。
ヒカルは悲鳴をあげて、アキラの命令する通りの体勢をとった。
「わかればいいんだよ」
満足そうにそう言うと、アキラはそこから手を引き抜き、すぐさま自分のモノをあてがった。
突然の進入物に、ヒカルは何も考えられなくなった。
狭いトイレの個室ということもあって、アキラは小刻みにヒカルを攻めた。しかしヒカルのあげる喘ぎ声に
反応して、徐々に激しく突き上げる。
ヒカルは壁に頭がぶつからないように、手で必死に守った。壁を押すために腹に力を入れるので、ただでさえキツイ立ったままでの挿入は、よりアキラのモノを締めつける結果となった。
それでもアキラの腰は止まることなく激しく攻めたてる。ヒカルはあまりの激しさに泣きそうになった。
ヒカルの中で何度か達したアキラは、ズルリと自分のモノを抜き取ると、ヒカルの体を反転させた。そしてしばらくキスを楽しむとヒカルから離れた。
ヒカルはやっと終わったのかと、アキラを睨んだ。
「・・・楽しかったか? こんな風に強引にやって、おまえは楽しかったのかよ」
ヒカルは嘲るように、怒りをあらわにして言った。しかしアキラは小首をかしげるだけだった。
「誰が終わりだなんて言ったんだ? 楽しみはまだまだこれからだろう」
アキラは微笑みながらヒカルの片足を持ち上げた。ヒカルは愕然とした表情でアキラを見つめる。アキラは本気だった。
ヒカルはもう無理だと言わんばかりに、進入を拒もうとアキラの胸を押した。
「いいね、その必死になって嫌がる顔。見てると、もっと酷いことをしたくなるよ」
じっと顔を見つめるアキラと目が合う。酷いことをしている割に、アキラはいつもの優しい表情をしていた。
ヒカルは抵抗を止めて、ついそれに見とれてしまう。そんなヒカルの額にアキラは優しくキスをした。
だが抵抗がゆるんだことをいいことに、アキラは挿入を再開した。
ヒカルの切ない悲鳴が響く。アキラはそれを自らの唇で封じた。


(13)
やっとヒカルの体を開放したアキラは、何事もなかったかのように、髪や服装を整えた。傍らには力尽きて床に座り込むヒカルがいた。
アキラはヒカルを立たせると、浴衣を着せにとりかかった。驚くほどシワだらけになった浴衣を整えながら着せる。
ふと、ヒカルの内ももにツーっと何かが流れ落ちるのが見えて、アキラは手を止めた。
しばらくそれを眺めてから、トイレットペーパーで丁寧にそれを拭取ると、浴衣を着せた。
「・・・なんで」
ヒカルはアキラをじっと睨みつける。
「なんであんだけ酷いことして、優しくすんだよ! だったら最初からすんなよ。・・・わかんねーよ。オレ、おまえのことわかんねーよ!!」
ヒカルはわけがわからなくて泣き出してしまった。
アキラは黙ってそれを見つめる。
「おまえ、オレのこと好きなんだろ? だったら何で嫌がることすんだよ」
「それはこっちのセリフだ。なんでボクの想いを知りながら、キミはボクを拒むんだ?どうしてボクを不安にさせるんだ?」
アキラは車内で引っ掻かれた腕の傷を見せてヒカルに逆に問うた。
「そんなの嫌だったからに決まってんだろ! オレはおまえの奴隷じゃないんだ。好きだったら何しても許されると思うなよ」
ヒカルはいつまでも変わらないこの関係を断ち切りたくて、外に出ようと、アキラを押しのけた。しかしその手をアキラが阻む。
「はなせよ。オレ、もう帰る」
「だめだ。帰さない」
そう言うとアキラは再びヒカルの体を求めてきた。
ヒカルは耐え切れず、アキラを力いっぱい押しのけると、外へ飛び出した。


(14)
夜の街にヒカルの下駄の音が鳴り響く。
ヒカルは駅の広場にある噴水のところまで逃げると、その場に座り込んだ。
無理に走ったせいか、体のあちこちがきしむように痛い。
アキラが追ってこないのを確認すると、ヒカルは肩の力がすっと抜けるのを感じた。
それと同時に涙腺がゆるんだ。ヒカルはうつむいて涙を必死にこらえた。
「どうかしたのか」
酔っ払った背広姿の若い男たちが声をかけてきた。
ヒカルは、何でもないと首を振った。
「気分でも悪いのか」
「ううん、何でもないってば」
ヒカルはほっといてくれとでも言うように男たちを見上げた。
しかし男たちの目には、先ほどのアキラ同様の怪しい光が帯びていた。
危険を察知したヒカルはその場から逃げようとした。
「どうした? 別に逃げなくてもいいだろう」
男たちはなれなれしくヒカルの肩や腰をなでまわす。
ヒカルは気持ち悪さと怖さから、無意識の内にアキラの名前を呼んでいた。
「イテテ、何すんだ」
ヒカルの体を野蛮に這い回っていた手を、いつのまにか現れたアキラがはねのけた。
「気安くこの子に触らないでください」
アキラはそう言って男たちを一瞥すると、ヒカルを自分の後ろへかばった。
「おおっ君もかわいいねぇ。なあなあ、ご馳走するから、これから食事にでも行かないか? それともカラオケがいいかな〜」
男たちはデレデレしながら、アキラの顔をよく見ようと顎をクイッと持ち上げた。
アキラは男らに唾を吐きつけ足を思い切り踏みつけると、ヒカルの手を引いて駅へと向かった。


(15)
「心配して来てみれば、予想通りの展開だったな」
アキラはそう言ってどんどん先に進む。怒っているようだが、さっきと違ってヒカルの手を強く握って離さなかった。
ヒカルはアキラの後ろ姿を見つめる。手を引くアキラの背中がいつもより大きく見えた。
どんなに酷いことをされても、アキラが本当は自分に甘いことも、優しいことも知っていたヒカルは、自分の気持ちに嘘はつけなかった。
「塔矢、アリガト」
ヒカルは謝るように感謝した。やっぱりアキラを嫌いになることなどできないと感じたからだ。
その言葉にアキラは立ち止まって振り返ると、ヒカルを睨んだ。
「その顔、ボク以外の前でしたら許さないからな」
アキラはそう言うと、ヒカルに軽くキスをする。そして何事もなかったかのように、また歩き出した。
まだにぎやかな駅前広場でキスをされたことに、ヒカルは恥ずかしくて浴衣の袖で顔を隠した。
アキラにとってそれは、ヒカルが自分のものだと周囲にアピールする行為だった。
いつもなら怒るのだが、それに気づいたヒカルはなんだか嬉しくてたまらなかった。
あんなに暴言を吐いたのに、アキラはためらうことなく自分を助けてくれた。それどころか、未だに自分のことを好いて、嫉妬している。
嫉妬も案外悪くないもんなんだなと、ヒカルは嬉しくなって、アキラに寄り添うように歩いた。



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