夏 11 - 15
(11)
ボクは、進藤の胸と腰に手を回して固定すると、ゆっくりと抽挿を始めた。
「ん、あ、あぁん………」
身体をグッと反らせて、尻を突き出すような姿勢の進藤を深く抉った。
「ァ、やぁ!痛い…………!」
進藤が喘いだ。小刻みに震える彼の前の部分に手を添えた。
「…………痛いっていう割には、ここはすごく熱くなってるよ?」
耳元で意地悪く笑う。
「や………いじわる………」
振り向いた進藤が、目元を赤く染めてボクを責める。その流し目がすごく色っぽくて、ボクは
ますます昂ぶっていく。
ゆっくりだった腰の動きは、徐々に早く激しくなった。
「あ、あ、あ、や……ヤダ……もっと優しくして………!」
そんな風に言われたら、余計に優しくなんて出来ないよ。わかっているの?
「ハァ……ァ、や………」
「進藤、進藤…………!」
ボクも無駄口を叩く余裕がなくなってきた。意識を一点に集中させる。
「や、塔矢、塔矢……!もう、ダメ……オレ……もう……」
「ボクも………」
大きく二、三度突き上げると、進藤は全身を大きく震わせ硬直した。
「アァ――――――――」
「進藤ぉ!」
ボクは、腕の中の小さな身体を強く抱きしめた。
(12)
「痛………」
シャワーを浴びながら、ボクは口の中で悲鳴を上げた。ボクの背中はヒリヒリと熱を持ち、
水でさえもしみる。
戸外で進藤を求めた代償だ。岩で囲まれて、陰になっていたとはいえ、やはり、完全に
強い陽射しを遮断することは出来なかったようだ。それとは、反対に、ボクの陰に隠れる形に
なっていた進藤は、自分の白い背中を鏡に映して残念そうに溜息を吐いていた。
「わ!塔矢、背中真っ赤だぜ!」
浴室から出てきたボクの背中を見て、進藤が大袈裟に驚いた。キャーキャーと騒ぐ彼を見て、
ボクはホンの少し気分を害した。いくら何でも、ちょっと、オーバーじゃないか?そんなに
騒ぐほど、酷くはないと思うけど………。
でも……確かに…彼の言うように、シャツを羽織れないほど痛むことは事実だ…………。
痛そう………と、進藤はボクの背中にこわごわと指先でちょこんと触れた。感電したように
ビリビリとした痛みが駆け抜けた。
「痛!」
「ゴ、ゴメン………」
慌てて手を引っ込めて、何度も謝る。ボクの顔を覗き込む大きな瞳が心配そうに揺れていた。
「大丈夫だよ……」
「オレ、ローション持ってる……塗ってやるよ!」
進藤は、自分のバッグを引っかき回して、小さなビンをとりだした。緑色の磨りガラスの
容器は涼しげで、それを見るだけでも身体の中に篭もっている熱が下がるような気がした。
(13)
「塔矢、寝て。」
進藤は、ボクにベッドに俯せになるように命令した。あまりに真剣な顔つきに、吹き出しそうに
なってしまったが、言われた通り大人しく横になる。
進藤が、掌にローションを振りかけて、ボクの背中にそっと触れた。
「ん……!」
「ゴメン!痛かった?」
「ん…ちょっと……でも、冷たくて気持ちいいよ……」
そう答えると、彼は、ジンジンと疼く背中に、ビショビショに濡らした手を当てた。
ヒンヤリとした感触が痛みを和らげる。それに、進藤の優しい手の動き。
「ありがとう………すごく気持ちいい………」
「ホント?」
ボクは無言で頷いた。本当に気持ちがよくて、このまま眠ってしまいそうだ。
進藤の手には不思議な力があるに違いない。初めてあったときは、指も掌も小さくて、
碁石の持ち方もおぼつかなかったが、今は彼のその指先が輝いて見える。ボクはその美しさに
いつも見とれてしまうのだ。
黙ってしまったボクに、焦れて進藤がちょっとむくれたように声をかけた。
「寝るなよ…」
もっと話がしたいと、彼は拗ねた。その間も触れるか触れないかの繊細さで、ボクの背中を
優しくさすってくれている。
「寝てないよ……ちょっと目を閉じていただけだよ……」
「塔矢、足はどう?足も痛いんじゃないか?」
陽射しに晒していた時間が短かったせいか、足はさほど痛くない。
「そっか?他に痛いとこあったら、言えよ?」
進藤に優しく介抱してもらえるなんて、なんて贅沢なんだろう………海に来てよかった。
(14)
ボクは進藤の手が与える心地よさに微睡んでいた………が、ふと気が付くと、あれほど
話せ話せとうるさかった彼がやけに静かだ。そう言えば、いつの間にか手も止まっていた。
眠ってしまったのだろうか?
「進藤?」
ボクは、少し肩を起こして首だけ後ろを振り向いた。
進藤は、眠ってはいなかった。いなかったが、様子が変だ。
「進藤、どうしたの?」
彼は、ベッドの端に座って、俯いていた。膝をもぞもぞさせ、落ち着きがない。ここからでは
彼の表情はよくわからない。
ちらりと見えた横顔は、ピンク色に染まった頬と小さく開いた唇。そして―――――
そこから紡ぎ出される甘い吐息が、彼の心情の全てを物語っていた。
「進藤………」
ボクは身体を起こして、もう一度彼に呼びかけた。進藤が、ビクンと身体を震わせて、ボクを
見つめた。
「塔矢………オレ……なんかヘン………」
「………したいの?」
あまりに直接的なボクの質問に、彼は顔を真っ赤にした。そして、躊躇いながらも小さく頷いた。
ボクの背中を撫でているうちに、どうやら、欲情してしまったらしい。
「だって………塔矢……すごく気持ちよさそうに……してるんだもん………」
そのくせ、時折、苦しそうに呻く姿が色っぽいのだと、彼は言った。
進藤の口からそんな言葉が飛び出すとは思わなかった。ボクの知っている進藤は、日頃の
強気な態度はどこへやら、ベッドの中ではひたすらシャイで純情可憐だった。
いや、過去形ではない。今も自分の言葉に顔を赤らめ俯く姿が愛らしくて、ボクをドキドキ
させる。進藤はどこまで行ってもやっぱり進藤だ。進藤バンザイ!
(15)
ボクは、少し意地悪をしたくなった。恥じらう進藤がとても可愛くて、もっと困らせて
みたいと思った。
「ボク、背中が痛くてちょっとそんな気分になれないんだ………」
ボクがこう言うと、進藤は更に赤くなって項垂れてしまった。情況をわきまえない、自分の
はしたない要求にすっかり恥じ入っているようだ。
「だからね………キミがボクをその気にさせて………」
意味がわからなかったのか、進藤はキョトンとした顔でボクを見つめ返した。
「キミのその手で、ボクを元気にしてくれる?」
漸く合点がいったのか、進藤は激しく狼狽えた。
「え?でも………」
戸惑うのも当然だ。ボクは今まで彼にこんな要求をしたことはなかった。どちらかと言えば、
進藤は淡白だ。そんな彼をその気にさせるために、躍起になるのはいつもボクで、彼の方から
求められたことは一度もなかった。だから、この申し出は本来なら飛び上がって喜ぶべきもの
なのだ………喜ぶべきものなのだが、恥じらう進藤があまりにも可愛いので、もっとそれを
見たいとボクは思ってしまった。
強いて例えるなら、そう――――夕日の美しさに感動した星の王子さまが、椅子を
ずらして一日に四十三回も日の入りを見たときの気持ちに似ている。
―――――いや……待て…ちょっと……かなり違うか………ボクの場合はスケベ心丸出しで、
センチメンタルで純真な王子さまと比べるのは、もの凄く無理があったかもしれない………
まあ、とにかく恥ずかしがる進藤は可愛い!だから……だからちょっとだけ、意地悪をした
かっただけなのだ。
彼が本当に嫌がれば、この要求をすぐにでも取り下げるつもりだった。ボクは、心底彼に
惚れているので、嫌われることだけはどうしても避けたかった。
「…………どうすればいいの?」
彼は暫く黙り込んでいたが、やがて、決心したようにボクを見つめた。
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