ピングー 11 - 15


(11)
水槽のろ過器の静かな稼働音だけが遠くに聞こえる部屋の空気を、悲鳴が
震わせた。
これでもかと使用されたジェルと、緒方の有無をいわさぬ強引さによって、
はじめての挿入は比較的スムーズに行われたと言ってよいが、だからといって、
ともなう痛みが薄れるわけではなかった。
ヒカルの繊細な下睫毛に、透明なビーズのような涙の粒が溜まっていた。
「痛い………、イタイよ……、センセエッ!」
「そんなもの、すぐに感じなくなるさ」
緒方はにべもない。
すぐに、腰を掻き回すように動きはじめた。
他人に中に進入されることが初めての人間に対して、緒方のそれは酷な動き方だった。
こねまわすように、だが同時に抉るように深く抜き差しする。
荒々しい男の息と、ヒカルの泣き声交じりの苦しげな息遣いと、接合点でグチャ
グチャと音をたてるジェルの音が、無機質な部屋の中で繰り返される。
ヒカルの睫毛から、小さなビーズの粒が、ポロポロとこぼれてシーツに落ちる。
緒方に、好きなようにされているうち、ヒカルの中からじわじわと、さっきまでの
指責めで感じていたのと同じ、体の中心が麻痺するような感覚が蘇ってきた。緒方が
しようとすることへの恐怖に、一度は体のどこかへ消し飛んでしまったその痺れは、
再び戻ってきてヒカルの下肢を支配し、さらに、上半身までその魔手を延ばそうと
していた。
「イヤダァ……」
ヒカルが逃げ出そうとするように、身をねじり、足は緒方に抱え上げられたまま、
上半身だけ俯せという無理な格好になって、クールグレイのシーツにすがりつく。


(12)
ヒカルの内部と、緒方の自身に豊潤に塗りこめられた透明なジェルが、溢れて、女の
愛液のように、その太腿までテラテラと濡らしていた。
「ん……ん……ん……」
身をよじりシーツに押し付けるように顔をうずめたヒカルは、緒方の腰が自分の尻に
押し付けられるたびに、低く高く呻く。
「そうか、おまえ、そっちの格好の方が好きなのか」
勝手な事をつぶやいて、緒方は、腰に抱えていたヒカルの足を下ろし、己の熱い欲望の
証しを引き抜くと、下肢も上体に合わせて俯せにさせた。
そして、ヒカルの薄い腰を掬うように抱き上げ、尻を自分の方に突きださせて、猫の
交尾の体勢をとらせる。
二人の体温で暖められ、さらに流動的になったジェルが、ヒカルの股間から滴り落ちて、
シーツに染みを作った。
そのヒカルの後ろの口に、緒方は再び猛った欲の塊を押し込む。
正面から入れられていたときより、更に奥まで届くそれに、ヒカルの背筋を怯えに似た
冷たいものが奔る。
緒方が再びリズミカルに、その凶器をヒカルの中で揮い始めた。
その動きに合わせて、ギシギシとベッドがひしぐ音を立てる。
緒方は、目の前のヒカルのなめらかな背中に噛みつくような口付けを落とす。
唇に触れたヒカルの皮膚が焼けるように熱い。
見ると、ヒカルの表情はシーツに伏せられていてわからないが、その肩甲骨から肩、
腕にかけてが、上気して牡丹の色に染まっていた。
明らかに、進藤ヒカルは感じているのだ。
「どうだ、だんだんよくなって来ただろう?」
緒方が興奮に掠れた声で、その背中にささやいた。
無意識にヒカルは、シーツに押し付けたままの顔を、コクコクと首を上下に降っていた。
緒方が、ヒカルの前に手をやると、ヒカルの中心も、固く反り返って、その尖端から
ヌルヌルとした液を垂らしている。
「フィニッシュだ」
緒方は、腰の律動を早めた。


(13)
「ひっ、あっ、ああっん! あぁっ! やぁだぁっ!」
先ほどの指責めで発見した、ヒカルの性感スポットを何度も強く突く。
ヒカルの口から上がった声は、拒否の言葉だったが、その響きは、彼自身の元々の
舌ったらずな口調とあいまって、緒方の背筋がぞくぞくするほど、蠱惑的だった。
「やだっ! 先生っっ! コワイッ! コワイッ! あ、あああぁぁうっ……!」
男のドロドロとした欲情の液が体内に放たれて、ヒカルの腕に幽かな痙攣の波が走った。
より強く握りしめられた灰色のシーツが、その瞬間にキュッと小さく絹ずれの音をさせた。


「しまったな」
朝。緒方が一番に考えたのは、己の身の保身だった。
閉められたカーテンの隙間からもれる朝日にチラチラと肌を照らされ、そこに横
たわる進藤ヒカル。
酔いの冷めた頭で昨夜の断片的にしか残っていない昨夜の出来事をつなぎあわせ、
的確な答えを導き出す。
進藤ヒカルの柔らかそうに乱れた髪。涙に濡れた跡を残すそのなめらかな頬。
さて、この子供をどう言いくるめて、昨夜の事を世間から隠ぺいしたものか。
緒方は更かしていた煙草を灰皿に置くと、水槽の方へ歩を寄せる。
水槽には水合わせのために浮かべたままのコリドラスの袋がプカプカと浮いていた。
それを破って、水槽の中に買ったばかりのコリドラスが泳いで身を沈めるのを見守っ
てから、緒方はもう一度、ベッドの傍らに立った。
「俺は男の趣味はなかったんだんが」
吸いかけの煙草を灰皿から取る。
「まぁ、なんとかなるだろう」
しょせん相手は子供だ。いくらでもごまかしようはある。
反省したような顔をして泣き落とすか、あるいは口先だけの愛を騙って丸め込むか。
丸め込んで、夢を見させて、飽きたら切り捨てて、身をもって「大人のつきあい」って
やつを世界を学ばせてやるのも一興だ。
(ふん。面白いかもしれんな)
緒方は吐き出した白い煙が部屋に広がって行くのを見ながら、思索にふけった。


(14)
進藤ヒカルに関してはいろいろと思うところがある。
まだ初心者だったはずの彼が、子供囲碁大会で示した才能の片鱗。
新初段戦での不可解な打ち回し。
本因坊秀作への偏執的ともいえるこだわり。
彼がまだ小学生の時に打った、塔矢アキラを負かしたという一局。
そうだ、あの時から、何か色々なことの運命の歯車がまわりはじめたような、そんな
気がするのだ。
――そして、「SAI」。
そのまわりはじめた運命の歯車の、軸になっているのは、間違いなくこの名前。
どこの誰なのか、あるいはネットの上にしかいないプログラムにつけられた名前に
過ぎないのか。
ネット囲碁の世界を引っかき回すだけ引っかき回して去った、幽霊のような棋士。
その「SAI」と呼ばれる存在に、進藤ヒカルが深く関わっていることは確かだ。
(打ちたいな)
あの伝説となった塔矢行洋との一局を、今思い出しただけでも、背中がぞくぞくして、
手が汗ばむ。
塔矢行洋も進藤ヒカルも、「SAI」に関しては黙して語らないが、ひょっとしたら、
自分がこのまま彼との関係を深くしていけば、聞きだすことが出来るかもしれない。
「SAI」と呼ばれた存在の行方を。
緒方の眼下で、布団の中でまるまっていた体が動いた。
差し込む朝の光りが揺らめいた気がした。
音もなく、進藤ヒカルがまぶたを開ける。
どちらにしろ、更に上へとのし上がって行こうとする自分に、未成年に淫行などという
スキャンダルは甚だ不似合いだ。下手すると謹慎処分をくらって大事な手合を不戦敗で
落とすことだって有り得る。
進藤ヒカルの口をいかに封じるか。
そして、緒方は数ある次の一手の可能性の中から、最強でも最善でもなく、ただ面白い
だけの一手を選んだのだ。


(15)
ヒカルの瞳が水が揺らぐように焦点を結び、緒方をその視界に入れた。
緒方は煙草を指にはさんだまま、黙って見下ろしていた。
「痛い」
小さくしわがれたようになった声が、彼の口から発せられた。
「動けない。気持ち悪い……。お腹すいた」
「シャワー浴びるか?」
「なんか、食べたい」
「後でなんか用意してやる。とりあえず、体をきれいにしとけ」
ぼうっとした視線が緒方に注がれた。
「先生……」
「なんだ」
「先生が眼鏡はずしてるとこ、初めて見た」
緒方も気付いて目のあたりに手をやっていた。そういえば、今日はまだ眼鏡をかけて
いなかった。
「――よけいな所を見てないで、はやくシャワーを浴びろ」
素顔を見られたことが妙に照れくさく、緒方は吸いかけの煙草を灰皿に投げ込むと、
ヒカルの体の下に腕を差し入れ、抱え上げる。ヒカルが悲鳴をあげるのを、
無視して浴室へと連れ込んだ。
「い、痛い痛い痛いっっ! 先生、痛いよ! 降ろしてよ!」
タイルの上に放りだす。
「何すんだよ、先生! 痛いっていってるのにっっ!」
「充分元気じゃないか」
シャワーのコックをひねると熱い湯が吹き出て、またたくまに冷えきっていた浴室が
温かい湯気に包まれた。
緒方は起き抜けに着込んだシャツとズボンを身につけたままで、それは湯にぬれて瞬く
間に重くなったが、かまわなかった。
スポンジにボディソープを大量にしみ込ませ、乱暴に湯に打たれているヒカルの背中を
ぬぐう。



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