失楽園 11 - 15


(11)
 緒方はヒカルをバスルームまでは案内したが、その後はどこかへ消えてしまっていた。ヒカルはバス
ローブの袖をブラブラさせたまま、緒方の姿を探す。
「おがたせんせえ〜」
 リビングとキッチンを覗き込みながら素通りし、廊下をペタペタと歩いていく。
 下着を洗濯されてしまい何も身に付けていないため、歩くたびに微妙な部分が布地に擦れる。ヒカルは
極力そこを意識しないように気をつけながら緒方を探した。
「どこ行ったんだよ、緒方先生」
 ヒカルは唇を尖らせて次の部屋のドアを開ける。自分を放って外出されていても困るのだ。ヒカルは
家で洗濯をしたことがなく、乾燥機の使い方もさっぱり判らない。どうにかして服を乾かしたとしても、
制服のズボンはヨレヨレだろうし、何より緒方に無断で帰るのも気が引けた。
「あっ」
 何回目かのハズレ――緒方のマンションには収納がたくさんあった――のあと、ヒカルは足を速めた。
シャワーを浴びる前には閉じていたドアが現在は開いている。
「ねぇねぇ緒方先生、見てくれよこれ〜!」
 ヒカルは笑いながら開かれたドアの前で仁王立ちになった。緒方のバスローブがいかに自分に似合わない
か、笑いながら両手を胸の前でブラブラさせる。
 緒方は無言だった。そして、その横にアキラの姿を認め、ヒカルは慌ててはだけたバスローブの襟を正し
た。アキラがあの日何度も舐め、吸い付いた胸だ。それをその相手に曝すことに激しい羞恥を感じたのだ。


(12)
 その行動をどう取ったのか、アキラはすぅっと顔の色を無くし、静かに緒方に向き直る。
「緒方さん。………これはどういうことですか」
「どういうことですか、とはどういうことだ?」
 涼しい顔で煙草を咥える緒方は、顔色一つ変えない。
「進藤をこんなところに連れてきて――、何をするつもりだったんですか」
 緒方を非難しているとしか思えないアキラのものの言い方に、ようやくヒカルはこのシチュエーションが
アキラに誤解されているということを気づいた。
 ――塔矢は、オレが緒方先生とそういうことをすると思ってる…?
「おい塔矢――」
 何をバカなことを言ってるんだ。ヒカルはそう笑って否定しようとした。アキラの考えていることは突飛が
なさすぎる。緒方はアキラと関係してはいるが、自分とはそのような関係にはならないのだ。
「何を、ね」
 緒方は一瞬自嘲めいた笑みを口許に刷いた。ヒカルが見たこともないような大きなベッドの上に咥えていた
煙草を放り投げると、緒方はヒカルの右手首を掴み、ベッドの上に引き倒す。
「うわっ」
 スプリングが軋んで、ヒカルの細い肢体は何度かバウンドする。咄嗟に起き上がろうとすると、緒方が
両手と両足を容易く拘束した。鍛えているのだろう、いくらもがいてもその両手はビクともしなかった。
「……キミは下世話なことに、オレが進藤とセックスすると想像してオレのマンションまで乗り込ん
で来たわけか。オレが鍵を渡しても一度も自分から足を運ぼうとしなかった、ここまで」
 緒方はそう吐き捨てると、立ち竦むアキラを睨み付けた。


(13)
「キミもやっぱり人の子なんだな。俗っぽいことをする」
 緒方は幾分失望したように呟くと自嘲気味に笑い、自分が組み敷いている相手の胸元をいとも簡単に
暴いた。小麦色によく焼けたヒカルの肌が、人工的に作られたライトの下で妖しく光る。
「緒方さん!」
「センセっ、何すんだよっ」
 ヒカルは押さえつけられた緒方の腕から逃れようと、必死に身体を蠢かし、緒方の凶行を止めるため
にベッドへ駆け寄ったアキラは、そのヒカルの扇情的な様子――アキラとはあまりに違う健康的な
肌の色、少しずつ露になってくる身体のライン――に一瞬目を奪われた。
 アキラが無理矢理ヒカルから視線を引き離すのを、緒方は醒めた目で観察している。ヒカルの足を
自らのそれで固定すると、緒方は片手で眼鏡を外した。眼鏡を外した途端に現れる整いすぎた緒方の
容貌は、心から微笑むと多分とても柔らかい表情を作るのだろう。ヒカルは突然現れた美貌から目を
離せず、そんなことを考えた。
「アキラくん、キミはそこで見ているんだ」
 アキラは顔をベッドから背けたまま、微動だにしない。緒方は髪を掻き上げると、その反対の手で
ヒカルの薄い身体の上を撫で上げた。ヒカルがこれからの行為を期待しているわけではないのだろうが、
指先にその固い突起の存在を感じ、緒方は口角をつり上げる。
 アキラくん、と緒方は再度呼びかけた。微動だにしない愛人を目を細めて見つめ、緒方は愛を囁く
ようにゆっくりと告げた。
「最後までだ。――いいね」


(14)
 ヒカルのはだけた胸を、緒方が両手で撫でさするように愛撫する。そうするつもりはなくても
固く尖ってしまった小さな突起を、クイと強く摘み、すぐさま舌で慰めた。ヒクリヒクリとうごめく
肩や脚は、ヒカルの感じている様子をダイレクトに緒方に伝えた。
 アキラは相変わらず顔をベッドから背けたまま立ち尽くしている。その足が僅かに後ずさるのを
見咎め、緒方は眉を顰めた。
「アキラくん、見るんだ」
 緒方の膝頭がヒカルの固く閉じた両足を割り――、その付け根まで辿り着く。下から押し上げる
ようにヒカルの小振りのものを刺激すると、すぐに小さな悲鳴が聞こえた。
「あぅっ」
 スラックスが精液で汚れたかもしれない。そんな思いが一瞬緒方の脳裏を駆けたが、すぐに忘れた。
「ん…っ、ヤメ――」 
 裸の上半身をふしだらにくねらせ、長い前髪をバサバサとシーツに擦り付ける。そんなヒカルの
痴態に緒方はにやりと笑い、整えた爪先で彼の胸を軽く掻いた。
 刺激が強すぎるのだろう、ピクリと震える度に胸の突起を尖らせた舌で慰めていると、そのうちに
濡れた舌の感触にまで敏感に反応するようになる。ぴくんぴくんと断続的に痙攣を起こすヒカルを、
緒方は冷静に観察した。
「やっ、やだってば………!」
 ぷっくりと膨れた赤い部分に歯を立てると、ヒカルは何度も頭を振る。しがみつかれた腕が
少し痛むが、緒方は構わずにベッドサイドに立ち竦んでいる愛人の方に視線を流した。
「………」
 アキラは額に汗を浮かべて2人を見つめていた。興奮しているといった風ではなく、ただただ
傷ついたような色をその美しい顔に浮かべている。
 珍しいものを見たような気がして緒方が年若い愛人を見つめていると、アキラもそれに気づき
正面から見詰め合うような形になった。緒方は口の端を歪めて笑い、アキラを見つめたままヒカ
ルの乳首を甘噛みする。乳輪を塞ぐように唇をあてがい、チュウチュウと音を立てて吸うと、
ヒカルの下半身を押さえつけている膝に濡れた感触が伝わってきた。


(15)
 ――まだ射精には至らない、いわゆる先走りというものだ。緒方はそれに構わず、更にヒカルの
細い体のあちらこちらに口づけを落とした。緒方の予想よりも随分と薄い皮膚を尖らせた舌で
ツツと辿ると、ヒカルはその度にピチピチと緒方の腕の中で撥ね、もう閉じていられなくなった
口許からは唾液が伝って落ちた。
 アキラは固唾を飲んでその様子を凝視している。ヒカルの喘ぎが部屋の空気をより濃厚なものに
するたび、アキラは少しずつ頬の色を染め、無意識にだろう、その細い自身を抱きしめた。
「ふ………ン、」
 全裸のヒカルを隠すものは緒方自身の身体の他になにもない。人工的に作られた光が、ヒカルの
尖った乳首や鎖骨、そして恥部に至るまでの陰影をより濃く彩り、彼の肢体が蠢くたびにそのコン
トラストも揺れた。
 緒方は進藤の身体にいくつものキスを落としながら、ヒカルの右脚の付け根へと辿りつき、その
柔らかさを味わうかのように内側を舐めあげ、そして甘く歯を立てる。緒方の目の前には勃ちあがっ
たヒカルの砲身があり、その向こうにはアキラがいた。
 緒方の手順の基本が、自分に施されるものとほとんど同じだということに気づかないアキラでは
ない。相手のリアクションが違えば自ずと変化も生まれてこようが、緒方はセックスの相手から返っ
てくる一手を自分の方で軌道修正するだけの冷静さを未だ持っていた。



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