初めての体験+Aside 11 - 15
(11)
「社?疲れたのか?お茶煎れてこようか?」
無言になった社をヒカルが気遣った。彼が部屋を出ていこうとしたとき、アキラが入ってきた。
「お茶ならボクが煎れようか?お母さんがいないから何のもてなしも出来ないけど…
お茶ぐらいなら煎れられるよ。」
……“お”茶、“お”母さん……何故だろう?ヒカルと同じ言葉使いなのに…何処か薄ら
寒く感じるのは……。
毒でも盛られるんとちゃうやろか?
社がそんなことを考えている間にも、アキラはテキパキと用意をしていく。
「さあ、どうぞ。」
「サンキュ。」
ヒカルは何の躊躇いもなく、湯飲みに口を付ける。社はどうしようかと、一瞬迷った。
「どうしたんだい?心配しなくても毒なんか入ってないよ?」
アキラが揶揄した。
「やだなあ、塔矢。冗談ばっかし。」
ヒカルが快活な笑い声を立てた。実に和やかな雰囲気だ。
アキラの小馬鹿にしたような視線と、ヒカルの無邪気な笑顔が、社を追いつめる。
―――――オレも男や。覚悟を決めるで。初日からビビってどうすんねん!
社は一気に、お茶を呷った。………………熱かった。
(12)
のどかに時間が過ぎていく。アキラの提案で始めた一手十秒超早碁勝負の合間の食事の時間である。先程から、社は一言も話していない。二人が楽しそうに談笑するのを眺めて
いるだけだ。時々、ヒカルが話をふってくるが曖昧に頷くだけだった。アキラは笑顔を
見せているが、目だけが笑っていない。社を見る目つきは何というか…怖い。
「あれ?もう、お湯がない…オレ沸かしてくる。」
ヒカルが席を立った。
「ボクも行くよ。」
社が声をかける前に、アキラはヒカルの後を追った。
ああ!出遅れた。でも、アキラと二人切りにされなくてよかったと思う自分は臆病者だ。
笑うなら笑え。怖いものは怖いのだ。
「それにしても、やっぱり塔矢って強いんやな…」
先程の対局を思い出す。噂通りである。北斗杯への意気込みを語ったところ、鼻先で笑われた。
それに対して自分は何も言い返せなかった。アキラの言うことももっともだと思ったし、
何より…その…怖かった…。
「まあ、ええわ…進藤が代わりに怒ってくれとったし…」
嬉しかった。
『なあ、塔矢…社、プロになるの反対されたんだって…』
哀しそうにヒカルが言った。アキラの父は引退したとはいえ、トップ棋士だった。そして、
ヒカルの両親は戸惑いながらも、ヒカルがプロの道を歩むのを応援してくれている。
ヒカルにとって社の両親の無理解が信じられなかったらしい。
『普通、子供の夢を応援してくれるもんじゃないの?』
『…安定した道を望むのも子供のためかもしれないよ…』
興味なさそうに言うアキラにヒカルはムッとした。
また、ケンカになりそうだったので、社は二人の会話に割り込んだ。それが、アキラの
気に障ったのだろうか?
『北斗杯のパンフを居間に置いてきたったわ』
『アレを見たら、オレのこと見なおすんやないかな』
『後は勝つだけや』
それを「幼稚」の一言で切って捨てられた。確かにそうかもしれないけど…。自分に
とっては結構重大な問題だったのだ…。言い返せない自分が悔しい。
『言い返せよ社!』
ヒカルは自分が言われたことのように憤慨した。怒ったヒカルも実にキュートで、膨らませた
頬をつつきたくなった。
(13)
「それにしても、遅いな…」
社は二人の様子を見に、台所へと向かった。灯りが漏れているところが台所だろう。
入ろうとして、足を止めた。中から話し声が聞こえる。いや、話し声と言うより
コレは…!?
「や…!ダメだったら…」
「やだ…んんん…」
ヒカルの甘い声に誘われるように、そっと中を覗き込んだ。
社の想像通りだった。アキラは、ヒカルを流し台に手をついて立たせ、後ろからその華奢な
身体を嬲っていた。Tシャツを胸まで捲り上げられ、下半身も完全に剥かれている。足下に
衣服が溜まっていた。
ヒカルは首だけで、振り返りアキラを見つめた。その瞳には涙が浮かんでいた。アキラは
そんなヒカルの訴えを無視して行為を続ける。
「ね…やめてよ…社に見られたら…アアァ!」
「声を出すと気づかれちゃうよ?」
意地悪くアキラに言われて、ヒカルは声を呑み込んだ。アキラの指先が、ヒカルの胸を這い
下半身を弄る。
「ン…ンン…やぁ…」
「後ろも大分柔らかくなってきたよ…」
アキラの言葉にヒカルは全身を朱に染めた。執拗な愛撫から逃れようと必死で身体をくねらせるが、
却って誘っているように見える。
アキラは自分の股間をまさぐると、片手でヒカルの腰を引き寄せた。
「ひ……!ああああぁぁ!」
ヒカルは甲高い悲鳴を上げた。
(14)
社はその場を立ち去ろうとしたが、足を縫い止められたように動けなかった。
ヒカルの甘い声が、妖艶な姿態が、社の目を釘付けにした。
「や…やぁだ…や…」
すすり泣く声が社の耳を打つ。だが、その声には艶が含まれていて、嫌がっているというよりも
快感に咽び泣いているといった方が正しい。
―――――進藤…感じとるんや…
アキラが腰を揺する度に、ヒカルが小さな悲鳴を上げた。
「あ、あ、ハァ…アア…」
ヒカルは声を堪えることが出来なくなった。足が震え、立っていることも辛いようだった。
「ん…あ…あぁ…」
ヒカルはシンクの中に、倒れ込んだ。下半身は未だアキラと繋がったままで、腰をしっかりと
支えられていた。
「はぁ…ふぅ…」
ヒカルは荒い息を吐きながら、身体をビクビクと痙攣させた。
アキラは息を吐くと、一際深くヒカルを貫いた。ヒカルの胸を抱き、背中に覆い被さる。
それにあわせるように二人は身体を震わせた。
暫くして、アキラがゆっくりと身体を起こした。そして、社の方へ視線を移し、口元に
不敵な笑みを浮かべた。
(15)
イ ・ ジ ・ メ―――――――
この三文字が社の頭に浮かんだ。コレは明らかに自分に対する嫌がらせである。ヒカルへの
社の想いを知っていながら、こういうことを平気でやるとは…。
『オレがおるん知っとったんや…』
社は、急いでその場を離れた。居間に戻って力無く座り込む。情けないことに涙が出てきた。
悔しかった。ヒカルはやっぱりアキラのものなのだ。どうあがいても勝ち目はないのだろうか?
だが、自分の分身は、先程のヒカルの嬌態に煽られて哀しいほど自己主張をしている。
『あ―――どないしよ…コレ…』
このままでは、何も考えられない。取り敢えず抜いてこよう。
社がトイレへ行こうと立ち上がったとき、突然後ろから突き飛ばされた。
「…痛!」
社が振り仰いだその視線の先に、アキラが立っていた。
「と…塔矢…」
声が震えた。
アキラは無言で社の傍らに膝をつき、徐に社の股間を握った。
「あ…!」
「ずいぶん、元気じゃないか?」
アキラはそう言いながら、社のズボンを緩め始めた。
「や…やめ…!」
社は身体を捩った。が、アキラに耳元に息を吹きかけられ、身体がピクリと震えた。
「こうなることがわかっていて、ここに来たんだろう?」
確かにその通りだが、実際そうなって欲しいと思っていたわけじゃない。ただ、ただ、
ヒカルに逢いたかったのだ。
「進藤には試せないオモチャがいろいろあるんだ…来てくれて嬉しいよ…」
背筋が凍った。そうや!進藤!
「し、進藤…進藤は…?」
「今、浴室。あちこち汚れちゃったからね。」
知ってるだろ?とアキラは言った。まさにピンチ!絶体絶命や〜〜〜〜!
(16)32-697 :初めての体験+Aside ◆IMTfjwVpA2 sage :02/12/04 22:47 ID:jT3FIeRz
その時―――――
「何やってるんだ?」
髪から雫を滴らせ、ヒカルが居間に入ってきた。社にとってまさに天の助け。
『やっぱり、天使や〜』
社は感動に咽び泣いた。心の中で…。
「なになに?二人とも。プロレス?」
アキラもヒカルがこんなに早く出てくるとは、予想していなかったらしい。呆然としている。
社はその一瞬の隙をついて、トイレに駆け込んだ。先程の余韻が残っているし、何より
風呂上がりのヒカルは色っぽかった。上気した頬、首筋にまとわりつく濡れた髪…。
「ああ…進藤…」
ヒカルの名前を呼びながら、自分を慰める。
―――――そういうたら、ここに来る前に手でしてもろたなあ。
あの柔らかい手の感触を思い出した。
「ハァ…ああ…」
手の中に吐き出されたものを見て自己嫌悪に陥った。
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