とびら 第二章 11 - 15


(11)
「い、まごろ、聞くなよ……!」
忌々しく思う。だがこのままでは自分も苦しい。
ヒカルはアキラの手を己のペニスに触れさせた。
「オレのをしごけ……とにかくオレに痛みを感じ、させないよう、気遣ってくれ……」
「わかった」
慣れない手つきでアキラは上下にこすりはじめる。
また先走りがあふれ、その手の動きがだんだんなめらかになってきた。
「はぁ……っ」
ヒカルも感じはじめ、身体の力を抜いていく。すると再びアキラが進み始めた。
時間をかけて、ようやく根底まで埋まった。
「っ……はやく、イケッ! ったく、好きに動いていいから……っ」
なぜ自分を犯す相手にこんな言葉を言わなくてはならないのだ。
アキラはうなずくと、ゆっくり腰を動かし始めた。ヒカルも合わせるように腰を振る。
「進藤……ん、はぁっ……しんど……っ」
苦しげに眉を寄せる様にヒカルはどきどきした。
ヒカルはアキラの気配を感じながら、昇りつめる呼吸をはかった。


(12)
こうなってしまったら自分も感じたほうが負担が少ない。しかし本当に不思議だった。
さっきまではアキラとこんなことをするなんて想像できなかった。だが実際はしている。
頭の中で思い描くのと、現実にするのとでは別のものなのだと気付く。
「……しんどう……好きだ、好きだ……しんどう……」
うわごとのようにささやき、切なげに名前を呼んでくる。その目はいまにも泣きそうだ。
アキラは唇を寄せてきた。
優しさに満ちているが、反対にペニスは荒々しく奥まで突き上げてくる。
「くっ……ぅ……しんどうっ……」
「んん……あぁっ、とうやぁっ……!」
アキラが達するのと同時に、ヒカルも二度目の射精をした。
身体の上にアキラの重みを感じた。二人とも肩を弾ませている。
「おい、今この教室から物音がしなかったか?」
余韻に浸っていたヒカルの耳に恐ろしい声が飛び込んできた。
「え? そうか? でもここって使われていないよな」
「暗くて見えないな。開けてみるか」
ヒカルはもうだめだと目を閉じた。


(13)
カーテンが引かれ、薄暗く湿った教室を少年たちは見渡した。
「別に変わったとこないじゃん。なんかごちゃごちゃ置いてるけど」
「あ、これ去年の文化祭の看板だぜ。こんなところに放り込んでたのかよ」
「もう行こうぜ。先生に見つかったら怒られちまう」
戸が閉められ、足音が去っていく。机にかかっていた垂れ幕がもぞりと動いた。
「……行ったみたいだね」
アキラが身体を起こす。その下には目に涙をためて震えるヒカルがいた。
歯の根があわない。見つかったらという恐怖が身体をこわばらせる。
「こ……の、ばかやろう! 見つかったらどうする気だったんだ!」
「そうだね、口封じでもしようか」
その笑顔が怖い。ものすごく怖い。アキラは笑いながら人を殺せる人間だと思った。
見かけは凪いだ水面のように穏やかだが、その内には熱いものがたぎっているのだ。
「……も、いいや……早く出ろよ……」
二人はまだつながったままだった。
アキラが身体をひくと、ずるりと体液が一緒に流れ出した。
また下痢になるのかとヒカルはげっそりした。
側にある布でアキラはヒカルの足をぬぐっていく。
「血が出ている……すまない……」
もうどうでも良かった。ものすごく疲れていた。ヒカルは机から転がり落ちた。
「進藤! 大丈夫か?」
「手……」
すでにしびれて感覚がなかった。紐は肌に食い込んでいて、うっすらと血がにじんでいた。
慌ててアキラはほどこうとするが、結び目がきついらしくなかなかできない。
アキラは立ち上がり、あたりをごそごそとさぐった。何かを見つけたらしく戻ってきた。
その手にはカッターが握られていた。
「この教室にはなんでもあるんだね。ピンポン玉やたて笛とかもあったよ」
何か含みのある言葉のような気がしてならない。
「……おまえ、こういうキャラだったっけ……」


(14)
刃を当てるとあっさりと紐が切れる。アキラは傷痕を消そうとするかのように舐めた。
「おまえ、ずっと前からオレのこと好きだったのかよ」
「たぶん」
「たぶん!?」
「気付いたのは昨日だ」
昨日の今日でこんなことをしたのか。ものすごい行動力だ。
「で、こんな強姦まがいのことをしたのかよ。おまえ俺のことなんておかまいなしじゃん」
アキラの表情が翳った。二人を包むように垂れ幕をかぶせてきた。
真っ暗だがアキラの吐息を感じた。おもむろにヒカルは抱きしめられた。
アキラの肩が震えている。
「……本当は、こうしてきみをこの腕に抱きたかったんだ……」
かすれた声。泣いているのかとその頬に手をやったが濡れていなかった。
ヒカルは垂れ幕をずらした。覚悟を決めたようなアキラの表情が目にうつった。
「僕はきみを追う。あきらめない。何があってもあきらめない」
「……あきらめない、あきらめない、って連呼するなよ。わかったから……」
そこで思わず吹きだした。
「アキラがアキラめない……すげぇシャレ」
「しゃれを言っているつもりはない」
わかってるよ、とヒカルは笑みを残したまま言う。
「……あのさ、恋人になろうって言うけどさ、具体的にはどうするんだ?
 別に恋人にならなくたってキスもできるし、セックスもできる。
 おまえは何を望んでるんだ?」
アキラは口を開いたが、言葉が見つからないようでまた閉じた。
「……うまく言えない。ただ……そう、きみの心を望んでいる」
また抽象的な言葉だ。ヒカルはそういう微妙なニュアンスなどつかめない。
「ココロ、ねえ……」
ヒカルは軽く頬をかいた。


(15)
アキラは一言一言かみしめるように続けた。
「きみの心が入ったキスをしたい。セックスをしたい。いや、それよりも僕はきみの
 唯一無二の存在になりたいんだ」
「ゆいいつむに?」
「二つとない、大切で特別な存在」
そのときヒカルの脳裏に、ある面影がよぎった。
雅やかで、優しくて、でも厳しくて、ずっと共にいられると思った人。
(……佐為……)
甘えないと、佐為がいなくても頑張れる、進んでいけると思っている。
だがやはりそれは虚勢であった。
ヒカルはまだ子供で、本当に割り切ることなどできていなかった。
もちろん佐為が自分の中にいるという想いは変わらない。
だが足元が崩れるような、あの喪失感。当たり前のように感じていたものが一瞬にして
消えてしまう、胸がかきむしられるような悲しみ。それがあるのは確かだった。
傷は傷として残っているのだ。
ずっと佐為と一緒だった。親よりも友達よりも近しい存在だった。
もう誰もいない。自分には誰もいない。
そんな虚無感をアキラに叩きつけられた気がした。
急に沈んだ表情をしてしまったヒカルをアキラは困惑したように見る。
「進藤?」
「……帰る。ずぼんとってくれ……」
差し出された衣服を身に着けながらヒカルは思った。
死んだ者が唯一無二の存在だと、そしてそれがこれからも変わらないだろうと考える
自分はとても寂しく、しかしとても幸せなのかもしれない、と。



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