社妄想(仮) 11 - 15
(11)
社の身体が大きく震え、その直後ヒカルの口腔に社の熱い欲望が迸った。
ヒカルは驚いて身を引いたが、頭を抱え込まれているので逃げる事はままならない。
その苦しい責苦から解放されたのは、社が己の出したものをヒカルが飲み下すのを確認した後だった。
社が荒く息を吐く中、ヒカルは俯いて泣いていた。
嚥下出来なかった生臭い精液が口の周りを濡らしていて、酷く気持ち悪い。
「う……げほっ、う、っぐ……ぅ」
気管にも少し入ったらしく、時々咳き込んでは、胃から迫り上がるような吐気を必死に堪える。
漸く少し落ち着いたらしい社が見下すように言った。
「あ〜あ、躾がなっとらんなぁ。まぁ慣れてへんのやろうけど。出されたものはきちんと
最後まで飲まなあかんで」
「……! 人を犬か猫みたいに言うな!」
「ふぅん…。こんな状態になっても盛(さか)っとる自分の浅ましさを見ても、そんな事言えるん?」
恥ずかしさと苛立たしさで、ヒカルの目の前が一瞬真っ赤になった。
酷い屈辱だった。
確かにヒカルのそれは長らく放置されながらも、みっともなく勃起していた。
ヒカルはどうする事も出来ず、悔しさに唇を噛んで視線を逸らす。
「……ま、いっか。もう時間もないしな」
社はそういうとジーパンのポケットに手を突っ込んで何かを取り出した。
(12)
「これ、なんやと思う?」
いくつか取り出したそれを手の平で軽く弄ぶ。
それはヒカルには余りにも耳馴れた音だった。
「……碁石?」
「正解。じゃ、次の問題。さて、これをどうするでしょう?」
社は心底嬉しそうに微笑んでいる。
考えたくない答えが、不意に浮かんで、だがそれが答えだとしか思えなくて、
ヒカルは僅かに身を引いた。
「オマエ……まさか…… ……」
「お、正解か? 多分御期待に添えると思うで」
期待なんて、冗談じゃない。
ヒカルは正座したままの足を崩してなんとか立ち上がろうとしたが、
やはり易々と社に捕まってしまった。
「や……! いやだっ、やめろ……!」
「後ろ手に縛ったのは失敗やったな。……ちょっと痛いかも知れんけど堪忍やで」
ヒカルの悲痛な叫びを無視してその華奢な身体を俯せにさせると、
社は腰だけを高く持ち上げて膝立ちにさせた。
今まで散々酷い事をしたという自覚は無いのか、こんな時に謝罪する社の真意は
ヒカルには未だ理解不能だった。
ヒカルの顔を横に倒し、上体を安定させてやると、社は何の施しも無しに
いきなりヒカルの秘門に指を突き立てた。
「………っ!!」
ヒカルは思わず顔を仰け反らせ、歯を食いしばった。
社はヒカルの表情を見ながら、彼の中にある指で柔襞を擦った。
「い……っ、や、や……だ…ぁっ」
軽く触れただけでも身体はびくびくと震え、秘門はきつい収縮を繰り返す。
「んー、えらいきっついなぁ。ある程度は想像してたけど、これは予想外や」
社が突き入れた時と同様に乱暴に指を引き抜くと、ヒカルの身体はくったりと弛緩した。
(13)
浅く息を吐いているヒカルの頭上から社の言葉が降ってくる。
「進藤って、もしかしてあんまり経験ないんか?」
ヒカルは一度唾を飲み込んで、軽く息を整えた。
「そんなこと、お前には関係無いだろ」
「そりゃ、そうなんやねんけど。なんや意外やったな」
「……何が」
問答を続けるのが馬鹿馬鹿しいと思わないでもなかったが、どうせ会話が途切れても、
ロクでもない事をされるに決まっているのだ。
ならばまだ時間稼ぎをする方がマシだと思いながらヒカルは社の話の先を促した。
「オレでさえあれだけ引く手数多(あまた)やってんから、こんな可愛い顔してるんやったら
さぞかし大変やろーなて思てんけど……」
「引く手数多、って……」
「ん? 碁会所とか行けへんの、自分?」
「行く事は行くけど、それとこれと、どう繋がるんだよ!」
ヒカルは、妙に苛立っていた。
社の言っている事が徐々に理解されてきて、初めて湧き出た戸惑い。
そして、そんな事あるわけない、きっと自分の思い違いで社の話の先がそれを否定するはずだという願い。
その二つの思いがヒカルの中で交錯していた。
だが、後者の願いは後に続く社の言葉であっさり断ち切られた。
「…… ……。東京のオッサンらて、随分淡白なんか、もしくは紳士やねんな。オレなんか
行ったその日に輪姦(マワ)されたっちゅうのに」
(14)
「…… …… ……」
声が出なかった。
自分の身に置き換えてなんて、ヒカルは考えてもみなかった事だった。
「な、んで…そんな、事……」
「へ? さぁ、知らへんよ、そんなん。ただ溜まってたんか……、よっぽどオレが好みやったんかもな」
ヒカルには、冗談めかしていう社が信じられなかった。
「何、何? オレの事にショック受けてくれてんの? ホンマ可愛いなぁ、自分。
心配せんでもえーで、オレ、今はそのオッサン達と仲良いし」
気持ち悪い。
自分は何故こんな問答をしているのだろう。
ヒカルは自分の知らなかった大人の欲望に嫌悪感を感じて震えた。
社は相変わらず、今ではオレが上になる事もあるし、と愉快そうに話している。
「まさに刺しつ刺されつの仲? って字もちゃうし、下品か。ハハハ」
「……お前、どっかおかしいよ。狂ってる」
恐怖を誤魔化しての精一杯の罵倒だった。
喉はからからに乾き、掠れた声はみっともなく震えていた。
だが、社の反応はヒカルが思っていたどんなものとも違った。
「それ、前に付き合っとった女にも言われたわ、性癖が歪んでる、とかなんとか」
よくゆーよな、自分だってオレの身体目当てで誘ってきたくせに。
そう言って社は笑う。あくまでも朗らかに。
(15)
今になって漸く、ヒカルは社に対して心から恐怖を感じた。
それは『理解出来ない』という恐怖。
ヒカルに分かるのは、今まで自分が知り合った全ての人と社は違うという事だけだった。
「あ、マジでやばいな。仕上げしとかんと」
社がおもむろにヒカルの腰を抱え込んだ。
「っ! …や、離せっ、……いやだぁっっ!」
急に暴れ出したヒカルに、社は軽く舌打ちしてヒカルの頭をやや乱暴に押さえつけた。
「……っく!」
「あんまり動かん方が身の為やで。オレが優しぃしたろ思てても、
そっちが暴れんのやったら無理矢理になるからな」
背後から聞こえるその声は、やはり淡々としていて、だが今のヒカルにはそれが何よりも怖かった。
大人しくなったヒカルを宥めるように、社は髪を撫でた。
微弱な震えが、小動物を思わせてなんとなく可愛らしい。
先程無理矢理指を突き立てたそこは、少し赤味を帯び、膨らんでいた。
本当に慣れていないのかも知れないと思った社は、そこにゆっくりと舌を這わせた。
ヒカルの身体がビクンと揺れ、洩れそうになった声を喉に負荷を掛けて飲み込んだのが分かった。
我慢しているのだと分かると、無理にでも啼かせてみたくなる。
柔らかい双丘を手で押し開くと、充分に湿らせた舌先でそこを解すように舐めた。
背筋が弓形に反り、高く持ち上がった腰が悩ましげに震える。
ぴちゃぴちゃとわざと音をたてると、ヒカルはきつく目を閉じて首を竦めた。
既に全身は朱に染まり、社の手技一つ一つに反応を示す。
微かに漏れる息遣いも浅く早い。
柔らかな髪は汗でしっとりと濡れて幾筋か頬に張り付いていた。
そして身体が震える度に眦からは透明な涙がぽろぽろと流れ落ち、それが更に社を興奮させた。
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