夜風にのせて 〜密会〜 11 - 15


(11)

十一
「それで付き合えって、今夜何かあるんですか?」
ヒカルは何事もなかったかのように笑いながら桑原に尋ねた。
「おう、実はのぅ…この後クラブに行きたいんじゃが」
クラブ?とヒカルは首をかしげる。その横で緒方はまたかとため息をついた。
「いや〜、若いもんを連れて行くと女の子が喜ぶんでな」
「進藤はまだ未成年ですよ」
ヒカルよりも先に緒方が断りを入れた。
「そんなことはわかっとる。だが今日はスーツを着とるし、保護者もいるんじゃから問題
なかろう。それにただきれいな女の子と食事して話すだけじゃ。金はワシが払うし、小僧
はなにも心配いらんぞ」
「進藤にはそんなことよりももっと教えるべきものがあるのではありませんか」
緒方はそう言うと、桑原から守るようにヒカルの肩を抱いた。それは未成年だからとか、
上段者としてではなくヒカルの身を案じたからだ。小さい頃からアキラを見てきた緒方は、
ヒカルの体の状態からアキラがヒカルに何をしたのか大体予測できた。なぜならアキラに
それを教えたのは緒方自身だったからだ。恐らくヒカルは立っているのも精一杯だろう。
このように傷つけたのはある意味自分の責任だと感じた緒方は、ヒカルを擁護した。
「そうかもしれんがたまには息抜きせんと。この年代は特にたまりやすいじゃろうからな」
桑原はヒカルの下半身をちらっと見て笑った。緒方はエロジジイと睨む。
「…息抜きか。オレ、行こうかな」
ヒカルの言葉に緒方は舌打ちをする。おそらくヒカルはどこへ連れて行かれるのか理解し
ていないのだろう。だがだからといってその体で行くのは無理だと言うわけにもいかない。
「おう小僧、それでこそ男じゃ。今夜は楽しい夜を送れそうじゃな。楽しみにしとるぞ」
桑原はそう言って高笑いすると会場に戻ろうとした。
「待ってください。進藤の保護者としてオレも行きます」
桑原は振り返り緒方を片目で睨んだ。
「来ても構わないが、気分を盛り下げることだけはするんじゃないぞ。それと緒方君の分
は払わないからな」
クソジジイと思いつつ、とりあえずヒカルに手が届く範囲にいられることを緒方は安心し
た。


(12)

十二
何色ものイルミネーションが輝く雑踏の中を一行は歩いた。
アルタ前の大通りを抜けて雑居ビルのある路地を通り抜けると、そこには大きな広場があ
った。その目の前にあるビルへ入ると、2組に分かれてエレベーターに乗った。
ヒカルが行くといったからだろうか。気がつくとアキラもその中にいた。だがヒカルは目
を合わせようとはしなかった。その姿を緒方は隣で見つめた。
エレベーターが到着し、案内係の男に誘導されてエレベーターに乗り込む。
するとアキラがヒカルの後ろに来た。それに気づいたヒカルは俯いて早く到着するのを待
った。そんなヒカルの手をアキラが握る。人で溢れかえったエレベーター内では、二人が
手を握っていることに誰も気づかなかった。これが謝罪を意味するのかヒカルにはわから
なかったが、目的の8階までの間が酷く長く感じた。
ドアが開くと同時に、アキラはヒカルの手を放した。ヒカルは握られていた手を見つめる。
「進藤、どうかしたのか?」
呆然と手を見つめるヒカルに、緒方は声をかけた。
「ううん。何でもない」
ヒカルはそう言うと歩き始めた。


(13)

十三
未成年という不安はあったが、意外にもあっさりと中に入れた。
初めて足を踏み入れた高級クラブに、ヒカルは驚いて中を見回した。
そこは体育館のように広い場所で、たくさんの席とダンスフロアー、そしてミュージシャ
ンによる生演奏が楽しめるステージがあった。薄暗い室内の天井には大きなミラーボール
があり、クルクルと回転して光を反射する。そして高級と言うだけあって、ヒカルが見て
もわかるような高級そうな調度品やシャンデリアがいくつもあった。
圧倒されたヒカルは口をあんぐりと開けて突っ立っていた。
「おい、バカみたいだぞ。口を閉じるか席に着くかしろ」
緒方に言われ、我に返ったヒカルは恥ずかしそうに顔を赤らめると、席へ向かった。


(14)

十四
「きゃ〜ん、カワイイ」
席に着くとヒカルは胸や背中のあいたロングドレスの綺麗なお姉さんたちに囲まれた。
「すご〜い。このコ、お肌がスベスベしてて気持ちいい。チュウしたくなるぅ〜」
ヒカルはほっぺたをぷにぷにされたり抱きつかれたりした。その時女性らの豊満な胸があ
たったり、目のやり場に困ったりでヒカルは顔を赤らめた。いくらアキラとの肉体関係が
あるとはいえ、思春期の男子である以上それに喜ばずにはいられなかった。
「ええのぅ、小僧。ワシも一度経験してみたいもんじゃ」
桑原はハーレム状態のヒカルを見て愚痴をこぼした。
「やだ先生ったら。あれは母性本能ですよ。女はカワイイ子を見るとついぎゅう〜って抱
きしめたくなるもんなんです」
桑原の隣に座っている女性がお酒を作りながら笑った。
「ワシも結構かわいいとこがあると思うんじゃが…」
女性から酒を受け取ると、桑原は未練がましくそう言った。
「そうですね。私たちを喜ばせるためにあんなカワイイ男の子を連れてきてくださったん
でしょ? そんなふうに気を使ってくれる桑原先生、私はカワイイと思うし大好きですよ」
女性は微笑んだ。その笑顔に桑原は鼻の下を伸ばして喜んだ。
「鼻の下伸ばしすぎですよ。全くだらしない」
タバコをふかしながら緒方は言った。緒方のそばにも女性が集まっていたが、緒方は顔色
ひとつ変えずにいた。そのクールさが彼女たちには受けたらしい。
「だ、だまれ、緒方君」
桑原はそう言うと、グラスの酒を飲み干した。
「おい小僧。いつまでも赤面していないで、しゃきっとせんか。塔矢のせがれを見てみろ。
女性に囲まれても動じない。あれこそ日本男児じゃぞ」
桑原のその言葉にヒカルはビクッとした。恐る恐るアキラの方を見る。
アキラは厳しい顔つきでヒカルを睨んでいた。その殺気に隣の女性もビクビクしている。
ヒカルは背中に大量の冷や汗が流れるのを感じた。


(15)

十五
「ねえ、ヒカル君。こんなにカワイイと女の子に間違われない?」
ヒカルの不安をよそに、女性たちは楽しそうに話しかけてくる。
「え? …そんなことないけど」
ヒカルはそう言った瞬間、アキラのことを考えた。もしかしたらアキラが自分の体を執拗
に求めてくるのは、自分が女っぽいから女の代わりとして見ているからなのだろうか。も
しこの顔じゃなかったら、アキラは自分をここまで愛さなかったのだろうか。
愛の言葉などなく、いつのまにかこんな関係をもつようになったヒカルは、今までアキラ
の強い押しにただ流されていた。だからアキラの自分に対する執着が、単なる体目当てな
のか好きだからなのかわからなかった。
ヒカルはアキラをチラッと見る。アキラは相変わらず無表情な顔をして烏龍茶片手に足を
組んで飲んでいる。隣の女性はアキラと何とかコミュニケーションをとろうと必死に話か
けている。けれどもアキラは「ええ」「まあ」などの返事しかしなかった。アキラは明らか
に怒った態度をとっている。その原因は自分なのかヒカルは試してみたくなった。



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