Linkage 111 - 112


(111)
 幹線道路から塔矢家のある住宅街へ向かう生活道路に入ると、快調に車は進んで行く。
「緒方さん、明日は碁会所に行きますか?」
「ああ、明日は行くよ。棋院で用を済ませた後だから、夕方になるだろう。……今日は済まなかったな。
わざわざ心配かけた上に、あんな……」
 アキラは俯いてゆるゆると首を横に振った。
「……別に……。ボクが勝手に緒方さんの家に押しかけたんだし……」
 顔を上げ、サイドミラーに映る自分の顔をぼんやり見つめるアキラは、消え入りそうな声で呟いた。
「……あの子……また碁会所に来るかな?」
「碁会所に来たということは、そう遠くに住んでる子でもなさそうだな……。だが、取り敢えずは
碁会所で待つしかないか」
「……緒方さんも気になりますか?」
「オレも碁打ちだぜ。そりゃ気になるさ。アキラ君の実力を知っているだけに尚更な」
 アキラはふと緒方の方を向いて、声を上げた。
「ここで止めて!」
「……家はもうひとつ先のブロックだろ?ここでいいのか?」
 言った後に緒方ははたと気付いた。
このまま塔矢家の門前まで車を進めるのは、状況としては不自然だった。
平日の夕方、碁会所でアキラと会った後に、緒方がアキラを塔矢家まで車で送ることは滅多にない。
 それに加え、今朝、緒方は気まずい思いで師匠からの誘いを断ったのだ。
もし門前まで車を進めれば、既に帰宅している師匠が現れる可能性もある。
夕食の席に誘われるような状況になれば、さすがに今度こそ断れないだろう。
緒方はアキラの言葉に従い、車を路肩に止めた。


(112)
「策士だな、アキラ君は……」
 シートベルトを外して苦笑するアキラにランドセルを渡してやると、緒方はハザードランプを点滅させ、
車のエンジンを切った。
「さっきも言ったが、くれぐれも気を付けて使ってくれよ。昨日のように眠れなくて気分が悪くなるだけなら、
それは一種の酩酊状態だ。酒で酔ってフラフラになるのと同じような感覚だな。幸い効き目が切れるのが
早い薬だから、しばらく我慢すれば元に戻ると思う。あと、うまく眠れたとしても睡眠時間は短くなるから、
その辺は覚悟しておいてくれ。明日、どんな感じだったか碁会所で報告するんだぞ。いいな!」
 一気にそう言うと、緒方はアキラの頭をポンポンと撫でる。
「……例の少年のことで、思い詰めすぎるんじゃないぞ。寝る時は、もっと楽しいことを考えろよ。
跳び箱8段を成功させることとかさ」
 緒方の言葉に微笑しながら頷くアキラは、そっとドアを開けた。
「ありがとう、緒方さん。明日、絶対碁会所で会えますよね?」
「薬のこともあるんだ。万難を排してでも行かないとな」
 アキラは嬉しそうに微笑んで車から降りると、ランドセルを背負った。
「それじゃあ、明日!」
 ドアを閉めて緒方に手を振ると、アキラは軽快な足取りで歩き出した。
途中、何度か振り返っては手を振るアキラに、緒方も手を振り返したが、アキラが角を曲がるのを見届け、
煙草の箱に手を伸ばす。
火を付け終えたライターを手の中で転がしながら煙をゆっくり吐き出すと、虚空に向けて呟いた。
「その少年が現れさえしなければ、アキラ君もオレもこんなことには……。いや、こんな状況に陥るのは、
どのみち時間の問題だったのかもしれんが……」



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