平安幻想異聞録-異聞- 112


(112)
加賀が一息に言い放つ。ただし、他には聞かれないように小声で。
「三谷や、筒井も文句言ってるぜ。おまえが完全に検非違使の一般職務から
 外されちまったせいで、市中見回りやら、街の掃除、穢れ払いの仕事に出来た穴を、
 あいつらとオレとで埋めてるんだ。せわしなくていけねーよ。あいつらもお前に
 言いたいみたいだぜ。『近衛のやつ、いったい何に巻き込まれてるんだ』ってな」
ヒカルは、うつむいた。そのヒカルの頭を、加賀が抱えるようにして引き寄せる。
「それでも、まだ、言えねぇか?」
ヒカルは検非違使の中でも仲のいい三谷や筒井のの顔を思い浮かべた。
加賀の胸にしがみつくようにして顔をうずめる。
「そうか……」
ヒカルは黙って頷いた。
宜陽殿の廊下を秋の涼風が吹き抜ける。
ヒカルの頭を抱きしめる加賀の腕に力がこもった。
あたたかい、とヒカルは思った。
「じゃあ、これだけは覚えとけ。オレはお前の味方だ。筒井も三谷もな。みんな
 お前のことを心配している。だから、本当に助けが欲しいときには必ず、
 オレか三谷や筒井に伝えろ。場合によっちゃ、多少の無理も聞いてやる。ひとりで
 全部抱え込んで潰れるようなことにはなるなよ。お前はそんな柄じゃねぇんだから」
「加賀、じゃあさ」
「なんだ?」
「今、ひとつだけ、オレの無理聞いて」
「…言ってみな」
「寝たい。寝かせて」
「あのなーーっっ!」
怒鳴りかけて、加賀はやめた。加賀の胸元に顔を寄せているヒカルの、金茶の
前髪の間からわずかに覗くまぶたと頬に疲れの色が見える。
単にに秋の風の心地よさに眠気を誘われたのではない。疲労から来る眠気らしいと
気付かされたのだ。
腕の中のヒカルの体は、眠気のせいか普段より体温が上がっていて、まるで
ヤマネかリスのような、小動物の暖かさだ。
「来い」
ヒカルの手を引いて、加賀は少し離れた誰もいない部屋に連れ込んだ。



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

テレワークならECナビ Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!
無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 海外旅行保険が無料! 海外ホテル