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平安幻想異聞録-異聞- 114
(114)
それ以来時折、近衛ヒカルと打ちあうが、検非違使仲間でも1,2を争う腕の
自分が、三本に一本は持っていかれる。
それだけではない、市中見回りなどの職務でも、加賀はヒカルと組まされる事が
多かった。検非違使は町中を見回りながら、時には町人達の言い争いや、
ケンカの仲裁もする。近衛ヒカルも、もちろん彼なりにその職務を一生懸命
こなそうとするのだが、いかんせん、あの童顔があだになる。ケンカに割って
入っていさめても、子供の言うことなど聞けるかと嘗められてしまうのだ。
だからか市中見回りでは、反対に泣く子もだまる強面で通っている加賀が、
ヒカルと組まされる。
そんな事情もあって、加賀とヒカルは検非違使の中でも、割りに一緒にいる
時間が長かった。
だが、苦にならなかった。むしろこの童顔の少年検非違使に、いろいろ教えたり、
職務の手助けをしたりするのは楽しかった。近衛ヒカルはふらふらしているように
見えても、仕事で手を抜いたことはなかったし、教えたことは一生懸命にこなした。
平たい話が、加賀はヒカルを気に入っていたのだ。
加賀は自分の背中によりかかるヒカルの方へ首を巡らせた。
視線を落とすと、投げ出された右手首が目に入った。
僅かに、何かでこすられたような、縛られたような痕がある。
それは手首を縄で縛られた罪人が、それをほどこうと暴れたときに出来る傷跡に
よく似ていた。
「おまえ、座間んとこで何されてんだよ」
思わず舌打ちがもれた。
頼って欲しいと思ったが、ヒカルがそれをよしとしないのなら無理強いは
できない。
だから、加賀は静かに、眠るヒカルに語りかける。
「早く帰ってこいよ、近衛。みんな待ってるんだぜ」
そして、誰が聞いているわけでもないのに、照れ隠しに付け加えた。
「お前がいねぇと、オレの剣の練習相手になる奴がいねぇんだよ」
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