平安幻想異聞録-異聞- 116
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だから、日が高く昇るまでヒカルはゆっくりと休息を取ることが出来た。
明日は、宮中で大きな行事があるせいか、その準備のために座間宛ての
文やら伝来やらが、落ち着きなく屋敷の外と内を行き来している気配が
絶えず、誰も彼もそちらの用事で忙しいのか、放って置かれたのも、ヒカルには
幸運だった。
午後になり、だいぶ疲れも取れて、ようやく起き上がったが、座間について
出仕する時以外はこの部屋を出ることを許されていないヒカルは何もすることが
なかった。
だから、侍女を呼んで、碁盤と碁石を持って来てもらったのだ。
カチャリと小さなこすれ合う音をさせて、碁笥からそれを取り上げ、パチリと
音をさせて、かの人をまねて白い石を置く。
碁を打てば思い出すのは佐為の事ばかりだ。
並べるのも、いつだったか佐為と打った一局。
ヒカルは佐為と打った棋譜は全部覚えている。
碁はそんな熱心に勉強したわけでないし、もちろんまだ佐為には一度も
勝てたことはないけれど、その覚えの良さだけは佐為に褒められた。
ヒカルは一度打った棋譜、見た棋譜は絶対に忘れない。
佐為のものならなおさらだ。
佐為との棋譜を並べているとまるで佐為と話しているようと思った。
『碁を打つことをね、手談とも言うんですよ』
出会って、ヒカルが碁を覚え始めたばかりの頃、佐為がそう言っていたのを
思い出す。
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