初めての体験 116 - 119
(116)
「アアァ――――――――」
ヒカルが細い悲鳴を上げた。その瞬間、目の眩むような快感が社を包んだ。
「あん…やぁ…ひぁ……」
社が腰を揺する度に、ヒカルの口から悲鳴が漏れる。だが、それは苦痛からではない。
瞳に涙が滲んでいるのも哀しいからではない。自分を受け入れ、快感に浸っているからだ。
――――――進藤!好きや!
心の中で何度も叫んだ。ヒカルを求めて、動きが徐々に激しくなる。
「ああ!やめて……やしろ…!あぁ…う…ん…」
――――――ホンマに…好きやねん……
「ああぁ―――!」
ヒカルが小さく叫んで、社を締め付けた。社の身体は一瞬緊張し、その後ゆっくりと弛緩した。
「だけど、意外だったな…」
ヒカルが、社の胸に身体を預けたまま呟いた。社は、ヒカルの顔を覗き込んだ。
「だって、社かっこいいし、もてそうだもん…こういうことなれてると思ってた…」
社を揶揄しているわけではない。心底感心しているような口調だった。
ヒカルは誉めているつもりなのだろうが、遊び好きのように思われていたのは心外だ。
社はそれを言おうと口を開きかけた。
「ん?どうかした?」
ヒカルの可愛い顔が目の前にあった。大きな瞳で自分を見つめている。
社は、顔を赤らめてそっぽを向いた。
「オレは…オレは…好きなヤツとしか、したないねん!」
照れ隠しに、小さく怒鳴った。
「それって…オレのことが好きってこと?」
真顔で聞き返されて、答えに詰まった。返事を訊かなくても、社の態度や表情を見れば
バレバレだろう。
ヒカルは、ニッコリと笑った。社を虜にした極上の笑顔。
「社…オレ…オマエのこと好きになりそう…」
そう言ってヒカルがキスをしてきた。その一言だけで、ヒカルの与えてくれた優しいキスは、
社の中で変化した。今までとは違う骨の髄から溶かすようなキス。何も考えられなくなった。
(117)
社が目を覚ましたとき、ヒカルはもういなかった。ヒカルの言葉を、頭の中で何度も
反芻した。
――――――社のこと好きになりそう…塔矢の次に…
二番目でも三番目でもいい…ヒカルが好きだと言ってくれた…!
ベッドの上で蹲って膝を抱えた。
「オレ…希望持ってもええんかな…」
社……意外性の男。予想外の一手にドキドキ。
ヒカルがいつもの様に、手帳に書き込んでいるとアキラが後ろから声をかけてきた。
「社のこと…気にいったみたいだね?」
「うん!怖そうに見えるけど、すごく優しくてイイヤツで…」
笑いながら、振り返る。と、一瞬、アキラの瞳が鋭い光を帯びていたように見えて、ヒカルは、
何度も目をしばたたかせた。
「どうしたの?目にゴミでも入った?」
アキラがそう言って、ヒカルの顔に触れてくる。いつもの優しい笑顔。
「ううん。何でもない。」
どうやら、見間違いだったらしい。ヒカルは甘えるようにアキラに抱きついた。
ヒカルが夢と現実の境目を漂っているとき、アキラの呟きがきこえた。
「一度、シメとくか…」
「何を?」と、聞き返したかったが、瞼が重くて開かなかった。
――――――明日訊いてみよう…
アキラの腕の中で、ヒカルの意識は深く沈み込んでいった。
おわり
(118)
『どうして、こんなことになっちゃったんだろう…?』
ヒカルは、今の自分の状況を把握しようと懸命に考えた。
ここは、北斗杯の会場となるホテルの一室。
部屋の主は、洪秀英……。
それなのに、どうして、自分の目の前に高永夏がいるのだろうか?
ヒカルは、秀英のベッドの上で永夏に組み敷かれていた。
『なんで?なんで?なんで〜?』
ヒカルは、ことの成り行きを思い出そうとした。
ヒカルにはひとつの野望があった。ヒカルはいつも“される”ばかりで、“した”ことが
なかった。一度くらい自分も入れてみたい…と考えていた。それは、忙しい日々の中、
ともすれば忘れがちになってしまうようなささやかな望みだった。
本当はヒカルだって、入れた経験がないわけではない。アレを数に入れるとすればの
話だが……。
院生試験を受けると決め、囲碁部と決別した日、ヒカルは加賀達に犯された。ヒカルの
抵抗も空しく、最初はアキラと決めていたその場所を彼らに蹂躙されたのだ。
部屋の中は淫靡な空気で充満していた。ヒカルが犯されるその光景に、あかりも津田も
明らかに興奮していた。
「あ、あ、あ、やだ、加賀…やめて…」
実験台の上に磔にされたヒカルの腰を加賀が穿つ。ヒカルの悲鳴とグチュグチュという
いやらしい音が部屋の中に響きわたる。その空気に触発されて、あかりがふらふらと立ち上がった。
「〜〜〜〜もうダメ…ヒカルぅ…」
あかりが身動きのとれないヒカルの上に跨った。そのまま、一気に腰を落とす。
「あ―――――――――――――――――――!」
高い悲鳴は、あかりのものか?それとも自分なのか?
ヒカルの上で腰を揺するあかりの表情に、いつもの清楚な幼なじみ面影はなかった。
口を大きく開き、涎を流しながら、ヒカルを犯している。そう、ヒカルは犯されたのだ。
「あ、あぁん…」
あかりがイッたあとは、津田が……。そうして、結局、ヒカルはその場にいた全員に犯された。
あかりは処女だと言っていたが……いくら雰囲気に飲まれたとはいえ、処女にあんなことが
できるのだろうか……?ヒカルは、それ以来女の子がちょっと怖くなった。
そういうわけで、ヒカルの初体験はわけのわからないうちに終わってしまった。
(119)
北斗杯で秀英に再開したとき、何故かそのことを思い出した。秀英が自分より、小さかったから
かもしれない。北斗杯のメンバーは、皆、ヒカルより年上か、同じ年でもアキラや社のように
体格で勝るもの達ばかりだった。ヒカルでも勝てそうなのが、秀英と趙石だけだった。
だが、趙石は日本語が話せない。意志の疎通を図るのが困難だと考え、秀英にターゲットを
絞ったのだ。
「秀英、久しぶりだし時間があったら、ちょっと話しでもしないか?」
ヒカルが笑いかけると秀英は真っ赤になって、俯いた。
―――――いける!
ヒカルは確信した。秀英は自分に気がある。
ヒカルは、秀英の耳元で囁きかけた。
「なあ、オマエの部屋に行ってもいい?」
「……う、うん…」
秀英は狼狽えながらも、ヒカルを部屋に招いた。
二人並んで、ベッドに座る。たわいのない話をしながら、秀英の手にそっと自分の手を
重ねた。
突然、秀英が立ち上がった。あっけにとられるヒカルに向かって、真剣な表情で秀英が
言った。
「し、進藤…三十分…いや、二十分だけ待ってて…頼む…」
二十分経ったら必ず帰る、と一声叫んで、鍵を片手に恐ろしい早さで部屋を出ていった。
二十分だけという秀英の言葉を信用して、ヒカルは素直に待つことにした。それにしても
どうして、いきなり秀英は出ていったのだろうか?
暫くして、呼び鈴が鳴った。
「秀英だ!」
ヒカルは、ドアを開けた。目の前にネクタイがあった。
「…?」
ゆっくりと、視線を上げる。
高永夏が笑って立っていた。
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