平安幻想異聞録-異聞- 117
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その通りだと思った。
佐為の石の運びの一つ一つに、その人となりがうかがえる。
ヒカルは、そうやって、佐為の石の運びを眺めるのも好きだったが、
碁を打っている佐為自身を眺めるのも、とても好きだった。
怖いけど、綺麗だった。その一局が難しいものであればあるほど、あたりの空気が、
キリキリとしぼり上げられた弓弦のように緊張して、痛いように張りつめる。
そのくせ、それは透明な玻璃細工のように繊細で、壊れやすい感じがするのだ。
そんな時は、佐為の近くにいるヒカルも、その空気を壊さないように、息をひそめて
おとなしくする。そっと、うかがうようにして、佐為の横顔を眺める。盤上を
切りつけるようにヒタと見つめる、厳しい視線。でも、そんな時の佐為の瞳が
ヒカルはとても好きだった。
佐為が、碁盤の上にその一手を置く、手の形、その白さまでが、まるで目の前に
佐為がいるかのように思い出される。
ふいに、体が熱くなった。昨日の晩もこれ以上は無理と思うほど、責め上げられた
のに、佐為のことを考えただけで、こんなにも、体の中心が熱を持つ。
佐為に抱きしめられたいな、と思った。
あの白い狩衣の胸に顔をうずめて、胸が透けるように心地の良い、あの菊の香の
かおりの中に埋もれられたら、どんなに心地いいだろう。
その時、廊下と部屋をしきる御簾が上げられて、座間が部屋に入ってきた。
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