平安幻想異聞録-異聞- 117 - 122
(117)
その通りだと思った。
佐為の石の運びの一つ一つに、その人となりがうかがえる。
ヒカルは、そうやって、佐為の石の運びを眺めるのも好きだったが、
碁を打っている佐為自身を眺めるのも、とても好きだった。
怖いけど、綺麗だった。その一局が難しいものであればあるほど、あたりの空気が、
キリキリとしぼり上げられた弓弦のように緊張して、痛いように張りつめる。
そのくせ、それは透明な玻璃細工のように繊細で、壊れやすい感じがするのだ。
そんな時は、佐為の近くにいるヒカルも、その空気を壊さないように、息をひそめて
おとなしくする。そっと、うかがうようにして、佐為の横顔を眺める。盤上を
切りつけるようにヒタと見つめる、厳しい視線。でも、そんな時の佐為の瞳が
ヒカルはとても好きだった。
佐為が、碁盤の上にその一手を置く、手の形、その白さまでが、まるで目の前に
佐為がいるかのように思い出される。
ふいに、体が熱くなった。昨日の晩もこれ以上は無理と思うほど、責め上げられた
のに、佐為のことを考えただけで、こんなにも、体の中心が熱を持つ。
佐為に抱きしめられたいな、と思った。
あの白い狩衣の胸に顔をうずめて、胸が透けるように心地の良い、あの菊の香の
かおりの中に埋もれられたら、どんなに心地いいだろう。
その時、廊下と部屋をしきる御簾が上げられて、座間が部屋に入ってきた。
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御簾が上げられるのと同時に、赤銅色の西日が差し込んだ。
秋の陽が、すでに山すそ近くまで下っている気配。
もうそんな時間かとヒカルは思った。
座間が碁盤の向こう側に座る。
「佐為殿との一局か?」
「………」
ヒカルは答えない。だが、盤面から目線をはずし、わずかに座間を見上げた
動作に明るい色の前髪が揺れて、夕陽を照り返し、金色に光った。
座間は碁盤の向こうから腕をのばし、手にした扇で、ついとそのヒカルの
細い顎をすくい上げる。ヒカルは黙ってされるがままになった。
「ふん、その澄ました顔。だんだん、奴に面ざしが似てきおって。かわいげの
ないことよ」
座間がいう『奴』というのが佐為の事だというのはわかったが、
自分と佐為の顔が似ているなどとは一度も思ったことのないヒカルは、
座間の言葉に内心戸惑った。
どちらかというと、外見は正反対じゃないだろうか? 自分と佐為は。
ヒカルの心の中に起った、そんな小さなさざ波には気付かず、座間が言い放つ。
「鳴かぬ鳥にも、もう飽いたわ」
口の片端だけをあげて、顔の半分で座間が笑う。
落日がその顔の半分を染めて、血に濡れているようにも見えた。
「今宵は今まで四日分、たっぷりと啼いてもらうでのう。他の事など
考えられぬ程にしてやろうぞ」
ヒカルの顎の下から、するりと扇の感触が無くなる。
座間は立ち上がると、振り返りもせずに部屋を出ていった。
ヒカルは、再び降ろされ、部屋と外界を遮断した御簾を、じっと睨みつけた。
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陽が完全に落ち、涼やかな秋の風が、ひんやりと、吹かれて楽しむにはやや
冷たいものにに変わる。
庭先で、マツムシ鈴虫が、秋の音を奏で始める頃。
座間達が訪れる時刻よりひと足早く、いつもの侍女が部屋を訪れ、隅の方で
なにやら、変わった香をたきはじめた。
ムッとした甘い香りが立ちこめる。
体にまとわり付くようなその香気の濃さは、頭が痛くなるほどだった。
暗い部屋を、ぼんやりと照らし出す灯明台に油が足される。
侍女が退出し、しばらくすると、座間と菅原がやってきた。
「脱げ」と命じられる。
それは昨日やおとといと同じだった。
立ち上がったとき、ふらりと足元がよろめいた。連夜の疲れがたまっているのだ
と思った。
狩衣の留め紐に手をかけ、それをほどいて、肩から落とす。
次に指貫の足首の紐をほどこうとして下を見て、床がくらりと回った。
(あれ……?)
気がついたら、床に倒れていた。いつ倒れたのかもわからなかった。
何か時間の感覚がおかしい。
「どうされたか、検非違使どの?」
ヒカルの横でその様を見物していた菅原が、扇子で口元を隠しながら言った。
だが、その口元が笑っているだろうことがヒカルにはわかった。だから強がって、
もう一度、しっかりと床板を踏みしめ、立ち上がり、指貫の腰ひもをほどく。
しかし、たったそれだけの動作にまたしても足がもつれて、ヒカルはヘタリと
床の上に転んで倒れてしまった。
腰に力がはいらない。
平衡感覚が崩れて、なんだか自分が今、どこにいるかもわからないぐらいに
頭がぼんやりしている。
(なんで……)
「さすが、この薬の効果は絶大ございますなぁ、座間様」
(薬?)
座間が立ち上がって近寄り、床に倒れ伏すヒカルの目の前にかがみ込んだ。
その顎をつまんで、幼さの残る顔を、自分を見上げる角度に持ち上げる。
「気付かなかったか? まぁ、無理もないわ。だが、わしらのように、ある程度
体が慣れてしまっていれば、さほどのこともなくなってしまうが、初めてでは、
いっそ辛いほどであろうよ、この香は」
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(この香が…なんだって?)
ヒカルはどこかフワフワする頭で、座間の言葉を聞いた。
「そう不思議そうな顔をするな。この香は、唐の国の後宮から伝わった秘伝の
ものでの。本来は後宮に上がって初めて皇帝の寝所にはべる処女のために
焚かれるものだそうじゃ。心地よいであろう?」
座間がヒカルを体ごと引き寄せた。抗おうとしたが、体に上手く力が入らず、
それは形ばかりのものになってしまった。
座間が、座ったまま、その体の中に、ヒカルを背中向きに抱き込む。
ごつごつした大きな右手がヒカルのわきの下を通って、単衣の合わせから中に
忍び込み、ヒカルのしっとりとした肌に触れた。
「くんっ」
触られただけで、背筋を駆け抜けた甘さに、ヒカルが思わず肩をすくませた。
自分の皮膚の表面が、常以上に過敏になっているのがわかった。
「唯でさえ、感じやすい体なのにのう、これではひとたまりもあるまい」
「今宵は、異国の寵姫を愛でる気分で、楽しむのも一興ですなぁ」
座間が、ヒカルの肌をたどった。まだ薄づきの胸の筋肉をなで、腹から腰へ、
腰から、円い双丘へ。そのみずみずしい少年の肌を愛でる。緊張のため、
わずかにしっとりと汗ばむヒカルのそれは、まるで座間の手に吸い付くように
なめらかだ。座間の腕の中溜め息のような、甘いうめき声が、ヒカルの鼻から
喉へ抜けた。
そういえば、いつもならこの辺で、ヒカルの前で上等の布が裂かれ、猿轡をされる
のに、今日はそうするつもりはないらしい。だが、それはむしろヒカルにとっては、
今日は容赦するつもりはないのだと、座間と菅原に言われている気がして、
心がすくむ思いがした。
座間の手が、双丘から割って入り、ヒカルの秘門のまわりを、柔らかくほぐすように
圧したり揉んだりする。ヒカルの呼吸が速くなった。
そうしながら、今度は座間の左手が、単衣の布の上からヒカルの乳首のあたりを
まさぐる。
布ごとこすられるその感触に、ヒカルのそこはすぐにぷっくりと立ち上がって座間を
喜ばせた。
座間の右の中指が、つぷりと、あたたかいヒカルの菊の門の中に入れられた。
「おぉ、これは心地よいのう」
そう座間が感嘆の声をもらずほどに、ヒカルのそこは柔らかく、座間の指を
受け入れて包んだ。
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座間がゆっくりと、指で中をかきまわす。
「ぅん……」
ヒカルが、鼻にかかった声を小さくもらして、後頭部を座間の肩に押し付ける。
すでにその時、香のせいで夢見心地になっていたヒカルは抵抗することなど
思いつかなくなっていた。
座間が布の上から、ヒカルの両の乳首を交互に、転がすように愛撫する。
速くなったヒカルの呼吸に、かすかな嬌声が混じる。
ヒカルが緩慢な動作で、座間の胸にその身を預けてきた。
体を包み始めた快楽のために、口の中に溜まってしまった唾液を嚥下する、その
白いの喉の動きがなまめかしい。
「完全に、香が効いてきたようじゃのう」
菅原が、ヒカルの単衣の前をはだける。
ヒカルのモノは、その真ん中ですでに半分立ち上がって、受ける快楽に反応していた。
そのさらに奥、秘門には、座間の指が1本刺さって、ゆっくりと中を掻き回している。
布の上からヒカルの乳首を玩んでいた座間の手が、はだけられた単衣の中に入り込み、
今度はヒカルの胸に赤く息づくそれを直接刺激しはじめた。
「…は、……はぁ……はぁん……」
上からも下からも責められて、ヒカルの呼吸の合間にはっきりした喘ぎ声が上がり
はじめる。
秘門の入り口付近を嬲っていた座間の指が、さらに根元まで入り込む。
「欲しがって蠢いておるぞ、この中が」
ぬらぬらと蠕動する腸壁の感触に座間が破顔する。
「いつも、これくらいに素直であればよいものをのう」
その節くれ立った指の関節が、ヒカルの中の急所をかすめた。
ヒカルの口から上がったのは蕩けるような甘い声。それだけではなく、内壁は
さらなる強い刺激を求めて、座間の指の動きを追い、うごめき、締めつけた。
思わずといったようすで閉じようとしたヒカルのその足を菅原が、床に
おさえて動きを封じた。
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ヒカルの足指が座間の指の動きにあわせて、やるせなく開いたり握られたりしている。
自らの腕の中で乱れ始めたヒカルの、その首筋に、座間が噛みつくように、
唇を寄せた。
胸を嬲っていた手で、まだ羽織られていたままの、着物をよけて肩と背中を
むき出しにする。
そのまま、しどけなく単衣を着乱したかっこうのヒカルを背中から抱きかかえる形で、
座間がその若柳のような背筋にそって、舌で愛撫を繰り返す。
そうしながら、ゆっくりヒカルの体を抱えて、うつぶせに押し倒した。
ヒカルの中に入った指は、そのままだ。
座間が、ヒカルの耳元にささやく。
「欲しいか?儂が?」
朦朧とした頭で、何を聞かれているかもわからないままにヒカルは頷いた。
座間は満足げに頷くと、その熱くそそり立った自らの肉鉾を取りだし、ヒカルの体を
深々とつらぬいた。
ヒカルの体はそれを何の抵抗もなく受け入れた。
座間が、ゆったりとした動きで抜き差しをしだす。
奥を突くたびにヒカルが声をあげた。
眉をよせ、それでもせり上がる喜悦を押さえられないと言った風に、
床板にしがみつくように爪を立てた。
座間が中に精を放つ。
ヒカルも同時に果てた。
ぐったりと、まだ単衣を半分羽織ったままの体を床に投げ出す。
その体を半身を起こした座間が引き起こして、抱えた。
熱に火照るヒカルの頬を、その汗ばんだ手で撫でる。
「さて、前座は終わりといったところかな、検非違使殿」
ヒカルは、はっきりしない、霞がかった視界に、菅原がどこからか瀟洒な文箱を
取りだしたのをぼんやりと見ていた。
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