平安幻想異聞録-異聞- 119 - 120


(119)
陽が完全に落ち、涼やかな秋の風が、ひんやりと、吹かれて楽しむにはやや
冷たいものにに変わる。
庭先で、マツムシ鈴虫が、秋の音を奏で始める頃。
座間達が訪れる時刻よりひと足早く、いつもの侍女が部屋を訪れ、隅の方で
なにやら、変わった香をたきはじめた。
ムッとした甘い香りが立ちこめる。
体にまとわり付くようなその香気の濃さは、頭が痛くなるほどだった。
暗い部屋を、ぼんやりと照らし出す灯明台に油が足される。
侍女が退出し、しばらくすると、座間と菅原がやってきた。
「脱げ」と命じられる。
それは昨日やおとといと同じだった。
立ち上がったとき、ふらりと足元がよろめいた。連夜の疲れがたまっているのだ
と思った。
狩衣の留め紐に手をかけ、それをほどいて、肩から落とす。
次に指貫の足首の紐をほどこうとして下を見て、床がくらりと回った。
(あれ……?)
気がついたら、床に倒れていた。いつ倒れたのかもわからなかった。
何か時間の感覚がおかしい。
「どうされたか、検非違使どの?」
ヒカルの横でその様を見物していた菅原が、扇子で口元を隠しながら言った。
だが、その口元が笑っているだろうことがヒカルにはわかった。だから強がって、
もう一度、しっかりと床板を踏みしめ、立ち上がり、指貫の腰ひもをほどく。
しかし、たったそれだけの動作にまたしても足がもつれて、ヒカルはヘタリと
床の上に転んで倒れてしまった。
腰に力がはいらない。
平衡感覚が崩れて、なんだか自分が今、どこにいるかもわからないぐらいに
頭がぼんやりしている。
(なんで……)
「さすが、この薬の効果は絶大ございますなぁ、座間様」
(薬?)
座間が立ち上がって近寄り、床に倒れ伏すヒカルの目の前にかがみ込んだ。
その顎をつまんで、幼さの残る顔を、自分を見上げる角度に持ち上げる。
「気付かなかったか? まぁ、無理もないわ。だが、わしらのように、ある程度
 体が慣れてしまっていれば、さほどのこともなくなってしまうが、初めてでは、
 いっそ辛いほどであろうよ、この香は」


(120)
(この香が…なんだって?)
ヒカルはどこかフワフワする頭で、座間の言葉を聞いた。
「そう不思議そうな顔をするな。この香は、唐の国の後宮から伝わった秘伝の
 ものでの。本来は後宮に上がって初めて皇帝の寝所にはべる処女のために
 焚かれるものだそうじゃ。心地よいであろう?」
座間がヒカルを体ごと引き寄せた。抗おうとしたが、体に上手く力が入らず、
それは形ばかりのものになってしまった。
座間が、座ったまま、その体の中に、ヒカルを背中向きに抱き込む。
ごつごつした大きな右手がヒカルのわきの下を通って、単衣の合わせから中に
忍び込み、ヒカルのしっとりとした肌に触れた。
「くんっ」
触られただけで、背筋を駆け抜けた甘さに、ヒカルが思わず肩をすくませた。
自分の皮膚の表面が、常以上に過敏になっているのがわかった。
「唯でさえ、感じやすい体なのにのう、これではひとたまりもあるまい」
「今宵は、異国の寵姫を愛でる気分で、楽しむのも一興ですなぁ」
座間が、ヒカルの肌をたどった。まだ薄づきの胸の筋肉をなで、腹から腰へ、
腰から、円い双丘へ。そのみずみずしい少年の肌を愛でる。緊張のため、
わずかにしっとりと汗ばむヒカルのそれは、まるで座間の手に吸い付くように
なめらかだ。座間の腕の中溜め息のような、甘いうめき声が、ヒカルの鼻から
喉へ抜けた。
そういえば、いつもならこの辺で、ヒカルの前で上等の布が裂かれ、猿轡をされる
のに、今日はそうするつもりはないらしい。だが、それはむしろヒカルにとっては、
今日は容赦するつもりはないのだと、座間と菅原に言われている気がして、
心がすくむ思いがした。
座間の手が、双丘から割って入り、ヒカルの秘門のまわりを、柔らかくほぐすように
圧したり揉んだりする。ヒカルの呼吸が速くなった。
そうしながら、今度は座間の左手が、単衣の布の上からヒカルの乳首のあたりを
まさぐる。
布ごとこすられるその感触に、ヒカルのそこはすぐにぷっくりと立ち上がって座間を
喜ばせた。
座間の右の中指が、つぷりと、あたたかいヒカルの菊の門の中に入れられた。
「おぉ、これは心地よいのう」
そう座間が感嘆の声をもらずほどに、ヒカルのそこは柔らかく、座間の指を
受け入れて包んだ。



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