トーヤアキラの一日 12
(12)
自分が頼んだ品物かどうかを頭の中で確認するのに時間がかかって、ボーッとしていた
アキラであったが、違う事がはっきりわかると、気恥ずかしさに襲われて、顔が赤くなるのが
わかる。
「あ・・・・はい、冷凍便ですね」
やっとの思いでそう答えると、すでに門の方に歩き出している配達員を目で見送る。
戸を閉めて溜息をつくと、台所に荷物を持って行く。どうしようかと、暫し考えたアキラは、
取りあえず、中身を確認する事にした。荷物に貼り付けてある伝票には受取人である父の
名前と差出人の名前が書いてある。内容の欄には「大岩井乳業アイスクリーム詰め合せ」と
ある。伝票を剥がすと、それを冷蔵庫のドアにマグネットで付けておく。発砲スチロールに
巻かれている透明のテープを剥がして蓋を開けると、カップアイスクリームがぎっしり詰まって
いた。とにかく溶けないように冷凍庫に入れなくてはいけない。扉を開けて、1個ずつ空いて
いる所に入れていく。バニラ、抹茶、オレンジ、そしてレモン味のアイスがある。
───レモン味か・・・・・美味しそうだな
アキラは微笑みながら、ヒカルとのファーストキスを思い出していた。
それは、北斗杯代表選抜東京予選のあった日の事だった。
アキラが告白したのは1月中旬だったので、それから一ヶ月あまりが経っていた。その間
2人は棋院で顔を合わせる事も殆ど無く、アキラにとっては辛い日々が続いていたのである。
一度すれ違った時、ヒカルは仲間数人と楽しそうに話していた。告白して以来、ヒカルからの
返事待ちであったが、2週間が経過したにも拘わらず、ヒカルからの連絡は全く無かった。
毎日ヒカルの事を想いながら、不安に胸が締め付けられそうだったアキラは、怯えるように
ヒカルに目を向けると、ヒカルは何か言いたげにアキラを見返していた。しかし、友達と
一緒に居るヒカルに話しかける勇気はその時のアキラには無かった
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