戻り花火 12
(12)
「・・・実を言うと、少し不安だったんだ」
黙々と打っていたアキラが柔らかな声で言った。碁に没頭して先刻の会話をすっかり頭から
締め出してしまっていたヒカルは「んー?」と生返事をした。
「ボクじゃ、普段同年代の人と話すこともあまりないし、二人になったら何を話していいか
わからないから。・・・そんなんじゃ彼も、気詰まりだろうしね」
「・・・社のこと?だって今までも連絡取ってたんだろ?社がこっちに来るなんて、オレ
オマエに聞かされて初めて知ったぜ」
パチリ、パチリと連続で二つ、石の音が響いた。
手を止めて黙ってしまったアキラをヒカルがちらりと見る。
「そうだけど・・・」
石を摘みあげたしなやかな指が、珍しく迷うように碁笥に戻された。
今アキラの目に、この石の並びはどんなものに映っているのだろう。
――電話で話すのと、実際会って話すのとは違うよ。
小さな声でそう呟くと、
物思いに沈むような、何か考え事をしているような、伏し目勝ちの儚い表情で
アキラはパチリと白石を置いた。
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