Shangri-La 12
(12)
ここでだけは、泣きたくない……緒方さんの前でだけは。
その頑なな意思だけが、アキラの表情を変えさせずにいた。
泣きそうになる心を変えたくて、ヒカルを悪者にしようと試みる。
ついこの間までいい顔しておきながら、連絡も突然切って
人のこと放っておきっぱなしだなんて、何考えてるんだか分からない。
しかも、人の話も聞かずに電話を切るなんてあり得ない。
大体碁会所で検討やってるときだって、人の話はあんまり聞いてないし
聞いてるかと思えば途中で遮るし、揚げ句放り投げて帰っちゃうし
なんていい加減なヤツなんだろう。
なのにボクは何故、今までそれに気づいてなかったんだろう。
あーなんだか本当腹たってきた!進藤もヒドイけど、自分もバカだ。
結局、アキラの瞳にはうっすらと涙が浮かび始めた。
「アキラ…」
緒方はそっとアキラを抱き締め、唇を重ねた。
今日の緒方は香りが違う。
多分マッチケースのおねーさんの趣味なのだろう、とアキラは思った。
自分を呼ぶ声がとても懐かしく、なんとなく身を任せた。
うっすらと目を開けると、緒方の肩越しに対岸の灯が見えたが
涙でそのスカイラインは滲み、暗いはずの空はどこまでも明るく映った。
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