アキラとヒカル−湯煙旅情編− 12
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初恋の人アキラが実は男だったことを知ったのは、アキラが小学校に上がった頃だった。初めは大変なショックを受けた。それでも弟を世話するような気分で一緒に囲碁教室に通ったり、遊んだり、相変わらずアキラの世話を焼く日々が続いていた。
あの日、囲碁教室からいなくなったアキラを加賀は探していた。いつも加賀と一緒に帰るアキラなのに、トイレに行ったまま、帰る時間になっても戻ってこなかった。
テナントが入ってない階のトイレでやっと見つけ出した時、アキラは大きく両脚を広げられ、その股間には中年の禿げたおやじが顔を埋めていた。口にガムテープを張られたアキラは泣きじゃくりながら大きな瞳をこちらに向けた。一瞬ゾクリとした。
その後の事はあまり覚えていない。たぶん頭が真っ白になり、モップかなんかでおやじを叩きのめしたと思う。アキラを守りきれなかったことはショックだった。だが、それよりもあの光景のアキラに己の性が反応してしまった事がよりショックだった。
だが、体は正直で、その一件以来、アキラを思うと体が熱くなった、自慰も覚えた。
その頃から、加賀はアキラを次第に避けるようになった。意識しすぎてしまった結果だった。アキラが加賀を慕ってくればくるほど罪悪感に苛まれた。守りたい相手への欲望と同性に対する欲望は加賀を苦しめた。
アキラに知られたくなかったし、気持ちを抑えて接するのは辛かった。
加賀に居留守を使われたアキラの哀しそうな顔は、しばらく加賀の胸から離れなかった。
――ガキだった・・・。あの頃のオレは他にどうすることも出来なかった。
アキラが加賀にわざと負けたのも、その頃だった。
その後加賀の家は引越し、囲碁教室も辞め、アキラとの接点は無くなった。それでも、時々アキラを見に行ったりしていた。月日を重ねるにつれ、加賀の辛かった思いは、ガキだった頃の切ない恋の思い出へと昇華されていった。
それなのに・・・今、再び目の前に現れた塔矢アキラが、あの頃の熱をそのままワープさせたように、加賀の心を狂おしく乱し始めていた。
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