平安幻想秘聞録・第三章 12


(12)
「幸い、意識がなく流れに逆らわなかったことが良かったのでしょう。
致命傷は受けずに済みましたが、しばらくは自分の脚で立って歩くこと
もできず、体力が戻り、都に帰れるようになるまで、二年の年月がかか
ってしまいました。その間(かん)、帝にも要らぬ心配をおかけして、
まことに申し訳ございません」
 朗々としたヒカルの声に、佐為は驚きが隠せなかった。確かに明も交
えて帝への対応を協議はしたが、答える役は佐為のもので、当のヒカル
はそんな長い台詞、オレには絶対無理だな。舌を噛みそうだと顔を顰め
ていたのだ。
「うむ。そうであったか」
「はい」
「とりあえずはそなたが無事で何よりじゃ」
「はい、ありがとうございます」
 低い頭を更に低くしたヒカルに、帝がついと近づく。そして、おもむ
ろに手にした扇子をヒカルの顎の下に当てると、そのまま掬い上げる。
つられてヒカルの顔も肩の高さまで上がり、覗き込むようにしている帝
とばっちりと目が合ってしまった。
 し、白川先生〜!?
 どこかで聞いた声だと思ってはいたが、まさか帝がヒカルの囲碁初心
者時代の恩師とも言える白川道夫だったとは。声も出ず、唖然と見返す
ヒカルに、帝は珍しく柔らかい笑みを向けた。
「なるほど、これは雛に稀なるほど美々な面じゃ。東宮が想いを寄せる
のも分かる気がするな」
 そう言われても、何と答えていいのか分からない。気温も高くない季
節だというのに、だらだらと嫌な汗がヒカルの背中を滑り落ちた。



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