失着点・龍界編 12
(12)
ピシリ、と碁盤の上に迷いのない清々した石の音が響く。
背筋をピンと伸ばし、首元まで伸びた黒髪が静かにそよぐ。
緊張した空気が漂う大手合いの空間の中でも塔矢アキラの周囲だけは、
また違った神々しさが漂っていた。数ヶ月間に及ぶ空白の後戻って来た彼の
碁は、ますます輝きと鋭さを増して周囲の人々を驚かせた。
ふと、盤上に落とされていた視線が辺りを漂い空いている席に移される。
「…進藤…」
相手に聞こえぬよう、その席の主の名を呟く。
同じようにその席に気持ちが移りがちな者達が居た。伊角と和谷だった。
それぞれがヒカルがこの場に来ていない事に動揺し心配していた。
早々と対局を終えたアキラが会場の外へ出て携帯電話を取り出す。
ヒカルに連絡を取ろうとしたのだ。そのアキラの視界に自動ドアが開くのも
もどかし気に早足で入ってくる緒方の姿が入った。緒方もアキラに気がつくと
真直ぐ足を進めて来る。
「アキラ君、ちょっと、」
直感的に悪い予感を嗅ぎ取って、アキラは携帯を閉じた。
アキラの肩に手を置いて一緒に来るよう促し、緒方は今来た道を戻る。
建物を出て、アキラを車の助手席に乗せて発進させ、ようやくアキラも緒方に
問える状態になったと理解して口を開いた。
「進藤に、何かあったんですか?」
「ゆうべ、車にはねられたらしい。」
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