うたかた 12


(12)

 この苦しみから解放されたい。
 いっそのこと、自分かヒカルが居なくなってしまえばいいのに。
 何でもいいから蹴りをつけたかった。

 いいかげん疲れた。


「ねぇ、加賀ってばちゃんと聞いてんのか!?」
 風邪でいつもと違うヒカルの声が急に届いたかと思うと、目の前に少し怒ったような大きな瞳があった。
「………。」
「さっきから話してんのに、ずっとボーッとしてただろ!」
 近付けた顔を離すと、ヒカルは布団の中に入り直した。
 その時、ヒカルのきれいな背中やまっすぐな背骨が目に入って、思わず目をそらす。
 ヒカルは手にりんごの皿を持っていた。いつの間に取ってきたんだろう、とぼんやり考えていると、ヒカルが急に振り向いた。
「それで、いつ?」
「あ?」
「さっきの話しの続きだよ!やっぱり聞いてなかったなー!!」
 怒りながらもりんごを口に運ぶ。どうやら食欲は湧いてきているようだった。
「…悪い。何て言ったんだ?」
「『元気になったらまた今度会いたいんだけど、いつなら都合いい?』って聞いたんだよ!」
 急に正気に戻った。
 また会う?
 …進藤と?

「加賀?」
「…ない。」

 会えるわけねえだろ。

「え?」
「……『今度』は、無い…。」

 これ以上自制心きくかよ。

「熱が下がったら、すぐ家に帰れ。」

 取り返しのつかなくなる前に。

「お前とは、もう会わない。」


 本当に大切な相手には、手が出せないという話しを聞いたことがあった。
 それは進藤と出会う前で、その時の自分には理解不能だったけれど────




 進藤が大切で大切で、どうしようもねえんだよ、畜生。



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