失着点・龍界編 12 - 13


(12)
ピシリ、と碁盤の上に迷いのない清々した石の音が響く。
背筋をピンと伸ばし、首元まで伸びた黒髪が静かにそよぐ。
緊張した空気が漂う大手合いの空間の中でも塔矢アキラの周囲だけは、
また違った神々しさが漂っていた。数ヶ月間に及ぶ空白の後戻って来た彼の
碁は、ますます輝きと鋭さを増して周囲の人々を驚かせた。
ふと、盤上に落とされていた視線が辺りを漂い空いている席に移される。
「…進藤…」
相手に聞こえぬよう、その席の主の名を呟く。
同じようにその席に気持ちが移りがちな者達が居た。伊角と和谷だった。
それぞれがヒカルがこの場に来ていない事に動揺し心配していた。
早々と対局を終えたアキラが会場の外へ出て携帯電話を取り出す。
ヒカルに連絡を取ろうとしたのだ。そのアキラの視界に自動ドアが開くのも
もどかし気に早足で入ってくる緒方の姿が入った。緒方もアキラに気がつくと
真直ぐ足を進めて来る。
「アキラ君、ちょっと、」
直感的に悪い予感を嗅ぎ取って、アキラは携帯を閉じた。
アキラの肩に手を置いて一緒に来るよう促し、緒方は今来た道を戻る。
建物を出て、アキラを車の助手席に乗せて発進させ、ようやくアキラも緒方に
問える状態になったと理解して口を開いた。
「進藤に、何かあったんですか?」
「ゆうべ、車にはねられたらしい。」


(13)
「えっ!?それで…!?」
「オレにも詳しい事はわからん。とにかくそう連絡があったらしくて、
さっき、棋院会館の職員から病院の場所だけ教えてもらった。」
「…進藤が…」
スーツのズボンの膝を両手で握りしめ、アキラの体が小刻みに震え出す。
「…しっかりしろ、アキラ君。」
緒方の言葉は、聞こえていなかった。
病院に着くなり急いで受付に向かい看護婦に部屋を教えてもらう。
面会謝絶という訳ではなかったのがせめてもの救いだった。
「…進藤!!」

「だからあ、守るだけじゃダメなんだってば。常に攻めるのと一緒に考えて
石を置く場所を決めないと…」
病室のドアを勢いよく開けたアキラが見たものは、ベッドの上にあぐらを
かいてマグネットタイプの囲碁板を使って入院患者相手に碁を教えている
進藤の姿だった。
「…塔矢…、」
呆然と立ち尽くしているアキラの背後で緒方も「やれやれ」といった感じに
息をつく。進藤の方が二人の切羽詰まった形相にビビりながら右手を上げた。
「…よ、よお。」
ヒカルに教えてもらっていた老人や中年の男性達が色めき立つ。
「お、お、緒方十段だ!さ、サインサイン!!」



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