失楽園 12 - 13
(12)
その行動をどう取ったのか、アキラはすぅっと顔の色を無くし、静かに緒方に向き直る。
「緒方さん。………これはどういうことですか」
「どういうことですか、とはどういうことだ?」
涼しい顔で煙草を咥える緒方は、顔色一つ変えない。
「進藤をこんなところに連れてきて――、何をするつもりだったんですか」
緒方を非難しているとしか思えないアキラのものの言い方に、ようやくヒカルはこのシチュエーションが
アキラに誤解されているということを気づいた。
――塔矢は、オレが緒方先生とそういうことをすると思ってる…?
「おい塔矢――」
何をバカなことを言ってるんだ。ヒカルはそう笑って否定しようとした。アキラの考えていることは突飛が
なさすぎる。緒方はアキラと関係してはいるが、自分とはそのような関係にはならないのだ。
「何を、ね」
緒方は一瞬自嘲めいた笑みを口許に刷いた。ヒカルが見たこともないような大きなベッドの上に咥えていた
煙草を放り投げると、緒方はヒカルの右手首を掴み、ベッドの上に引き倒す。
「うわっ」
スプリングが軋んで、ヒカルの細い肢体は何度かバウンドする。咄嗟に起き上がろうとすると、緒方が
両手と両足を容易く拘束した。鍛えているのだろう、いくらもがいてもその両手はビクともしなかった。
「……キミは下世話なことに、オレが進藤とセックスすると想像してオレのマンションまで乗り込ん
で来たわけか。オレが鍵を渡しても一度も自分から足を運ぼうとしなかった、ここまで」
緒方はそう吐き捨てると、立ち竦むアキラを睨み付けた。
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「キミもやっぱり人の子なんだな。俗っぽいことをする」
緒方は幾分失望したように呟くと自嘲気味に笑い、自分が組み敷いている相手の胸元をいとも簡単に
暴いた。小麦色によく焼けたヒカルの肌が、人工的に作られたライトの下で妖しく光る。
「緒方さん!」
「センセっ、何すんだよっ」
ヒカルは押さえつけられた緒方の腕から逃れようと、必死に身体を蠢かし、緒方の凶行を止めるため
にベッドへ駆け寄ったアキラは、そのヒカルの扇情的な様子――アキラとはあまりに違う健康的な
肌の色、少しずつ露になってくる身体のライン――に一瞬目を奪われた。
アキラが無理矢理ヒカルから視線を引き離すのを、緒方は醒めた目で観察している。ヒカルの足を
自らのそれで固定すると、緒方は片手で眼鏡を外した。眼鏡を外した途端に現れる整いすぎた緒方の
容貌は、心から微笑むと多分とても柔らかい表情を作るのだろう。ヒカルは突然現れた美貌から目を
離せず、そんなことを考えた。
「アキラくん、キミはそこで見ているんだ」
アキラは顔をベッドから背けたまま、微動だにしない。緒方は髪を掻き上げると、その反対の手で
ヒカルの薄い身体の上を撫で上げた。ヒカルがこれからの行為を期待しているわけではないのだろうが、
指先にその固い突起の存在を感じ、緒方は口角をつり上げる。
アキラくん、と緒方は再度呼びかけた。微動だにしない愛人を目を細めて見つめ、緒方は愛を囁く
ようにゆっくりと告げた。
「最後までだ。――いいね」
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