日記 124 - 126


(124)
 緒方の腕の中は温かくて気持ちがいい。ヒカルは、緒方にしがみついた。
「先生…オレ、苦しい…すごく寂しくて…苦しいんだ…」
助けて欲しかった。アキラに逢いたくて、逢いたくて、でも勇気が出なくて…寂しくて
辛い。
「助けて…」
緒方の腕に力がこもった。緒方は、ヒカルの唇に自分のそれを押し当てた。深く合わされた
唇の隙間から舌が入り込んできた。驚き、怖れ、戸惑いながらも、ヒカルは緒方に応えようとした。
 静かに唇が離れていく。ヒカルは閉じていた目を開けた。緒方と視線が絡み合った。
「アキラ君の代わりに…」
緒方の言葉をヒカルは遮った。
「…塔矢の代わりなんて誰にもできないよ…だって、塔矢は…オレの塔矢は一人だけしかいない…
 ………でも…今は、先生が欲しい…」
ヒカルはそう言って、緒方に口づけた。
「塔矢が好きだ……それは変わらない…だから…今だけ…」
 身代わりはイヤだと緒方は言った。身代わりではない。アキラも緒方も一人しかいない。
緒方の瞳には、自分が代わりを欲しているように見えているのかもしれない……。でも…
それでも欲しい……同情でも何でもいい…必要なのだ。今だけでいいから…緒方が欲しい。
大きな手と力強い腕、温かい胸が欲しい。
「…お願いだから…オレを助けて……どうしても欲しいんだ…先生が…」
緒方の胸に顔を埋めた。涙が広い胸を濡らす。
 緒方の腕が、ヒカルの背中をすくい上げた。そのまま、奥へと運ばれる。ヒカルは自分の
腕を緒方の首に回した。力の入らないその腕で緒方を引き寄せると、もう一度薄い唇に
キスをした。


(125)
―――――先生が欲しい…
その言葉を聞いた瞬間、緒方は降参した。むなしい抵抗を続けていた気がする。ずっと、
ヒカルが欲しかった。喉から手が出るほどに……。身代わりでも何でもよかった。だが、
自分にも、プライドがあってそれを認めたくなかったのだ。 
 本当は、ヒカルの涙を見たときから、緒方の負けは決まっていた。ヒカルがいじらしくて、
可哀想だった。アキラにすべてを話してしまいたい。しかし、そんなこと出来るわけもなかった。


 ヒカルをそっと、寝台の上に横たえた。乱暴に扱わないように、細心の注意を払う。
服に手を掛けると、ヒカルの身体が僅かに震えた。緒方は手を止めた。
「……いいから…やめないで…」
ヒカルは目を閉じて、小さな声で言った。
緒方の手によって、ヒカルの華奢な身体が徐々に露わになっていく。緒方は、あまりに
薄いその胸に驚いた。もともと頑強な方ではない。だが、これほど痩せてはいなかった。
皮膚の下に浮いて見えるあばら骨を一本一本なぞる。緒方の指の動きにあわせるように、
ヒカルが小さく吐息を漏らす。細い喉を仰け反らせ、痩せた胸を震わせるその姿は酷く
痛々しい。本当に簡単に壊れてしまいそうだった。


(126)
 「………先生…寒い…」
躊躇いがちに触れる緒方の首に、ヒカルが縋り付いた。
「寒い…凍えそうなんだ…」
最初、緒方は、言葉の意味を計りかねた。エアコンの表示は、二十七度を指している。
決して、寒すぎる室温ではない。
 「寒い」と訴えるヒカルは、緒方の腕の中で、瞳に涙を滲ませて震えている。だが、
その肌は熱く、うっすらと汗で覆われていた。
「寒いよ…」
ヒカルは何度も繰り返した。緒方を掻き抱く腕に力を込めて、涙で濡れた頬を厚い胸に
すりつけてきた。
緒方を自分の方へ引き寄せようと、ヒカルは必死だったが、その効果はほとんどなかった。
 細い腕でしがみつくヒカルを潰さないように、片手で自分を支えながら、華奢な身体に
重なった。開いた方の手で柔らかい前髪を梳いてやると、ヒカルの震えは漸く止まった。
「ふぅ…うぅ……」
「…まだ寒いか?」
ヒカルは、返事をする代わりに緒方をジッと見つめた。濡れた睫毛が微かに震えていた。



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