初めての体験 129 - 131


(129)
 怒りと羞恥で頭に血が上った。すべて思い出してしまった。大ッ嫌いな永夏に抱かれてしまった。
その、ことの元凶は……。
「秀英のバカ!なんで、永夏なんか連れてくるんだよ!」
せっかく、二人で楽しもうと思ったのに……。秀英は、ヒカルの剣幕に押されながらも
説明した。
「ご、ごめん…自信がなかったから…」
「自信?自信って何だよ?」
「進藤を満足させる自信だよ…」
秀英は、恥ずかしそうに俯いた。ハァ?何を言っているんだ?
 「最初は、永夏にやり方だけ教えてもらうつもりだったんだ…でも…」
秀英の言い分はこうだった。永夏曰く、ヒカルは可愛いから、ほかのヤツが放っておかない。
きっと、いろいろ経験済みだ。うまくやらないと嫌われる。
 純情な秀英は青くなった。経験不足の自分では、きっとヒカルは満足しない。嫌われて、
口も聞いてもらえなくなるかもしれない。
「それで、永夏が手伝ってくれるって…」
 ヒカルは、絶句した。なんて狡猾なヤツなんだ……!チェリーボーイの不安を利用するとは…
でも、やっぱり…一番、腹が立つのは……
「秀英のバカ!」
ヒカルは、手を振り上げて秀英を引っぱたこうとした。


(130)
 そのとき、後ろからやんわりと腕を掴まれた。そのまま、引き倒され、永夏の腕の中に
抱き込まれた。
「わ!なにすんだ!」
ヒカルが「離せ」と藻掻けば藻掻くほど、ますます腕に力を込める。くすくすと笑いながら
ヒカルの鼻先にキスをした。永夏の手が、ヒカルの身体を無遠慮に這い始める。
永夏は、日本語で「カワイイ」と繰り返した。
 ヒカルがいくら抵抗しても、永夏は軽く去なしてしまう。全く歯が立たなかった。
「う………うぅ…うぇぇ…」
ヒカルは本気で泣き出してしまった。
 永夏も、さすがに驚いて手を離す。ヒカルは、するりと永夏の腕の中から逃れると、
床に散らばったままの服を拾い集めた。ヒックヒックとしゃくり上げながら、一枚ずつ服を身につける。
 最後にネクタイを拾い上げると、ポケットにねじ込んだ。ヒカルは、ネクタイが結べないのだ。
 「進藤…」
秀英が心配をそうに声をかける。ヒカルは、キッと二人を睨み付けた。それから、
「オマエらなんか大ッ嫌いだ!」
と、一声そう叫び、泣きながら部屋を出て行った。


(131)
涙をぽろぽろ流したまま廊下を歩いていると、向こうから歩いてきた趙石がびっくりして立ち止まった。
恥ずかしい。泣いているところを見られてしまった。ヒカルは、手の甲で慌てて涙を拭いた。
 趙石はどうしたらいいのかわからなかったらしく、困惑しながら笑いかけてきた。その
チャーミングな笑顔に、ヒカルもつられて半べそかいたまま、笑い返した。
 最初は、見とれて惚けていた趙石の顔が見る見る赤くなっていく。そして、そんな自分に
気づいた途端、そのまま走り去ってしまった。
 ヒカルはその後ろ姿を見送りながら、『いけるかも…』と、思った。だけど、追いかける
つもりはなかった。
「また、人数増えてたら困るもんな…」
でも、通訳に楊梅さんとか来たらどうしようと、思いながらも……楊梅さんなら、ちょっとイイかな…
と考えてしまった。自分は全然懲りてない。
「戒めのためにとっとと手帳に今日の戦果をつけておこう。」

高永夏…軽い外見の割には研究熱心。強い。さすがに、韓国若手ナンバーワンを自負する
    だけのことはある。
でも、オレはオマエなんか大ッ嫌いだ!
洪秀英…技術的にはまだまだ未熟。だが、探求心は旺盛で、努力家。今後に期待大。


               おまけ



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