平安幻想異聞録-異聞- 129 - 132
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座間が、ヒカルの吐きだしたものでぬめる手の平で、若竹の肌のようにも似た
滑らかさの若い太ももを撫でる。そこが白いもので薄く汚された。
さらにそのほの暗い内股に座間は手を這わせ、奥へと侵入し、その場所に指を
差し入れてさぐった。
ヒカルの指先がピクリと反応し、「アァ…」と小さくすすり泣くような声が
漏れた。
中の壁は、まだ燃えるように熱かった。
「新しく香をたかんでも、まだじゅうぶんに熱が残っておるようじゃ」
座間はあらためてヒカルを床の上に横たえる。その足を両肩に抱え上げ、
その鈴口で、数回、入り口を押したあと、一気に根元まで押し入れた。
いきなり最奥まで来られて、ヒカルが感じ入ったような喘ぎ声をあげた。
首が反り返って、自身を蹂躙する獣の前に、のど笛が無防備にさらされる。
「このあで姿、佐為の奴にも見せてやりたいものよ」
そうして、再びヒカルは快楽に追い上げられ始める。
熱い沼の淵に追いつめられる。
今日、この日まで、ヒカルはこれほど深い快感を知らなかった。
自分自身を失うほどの、それは歓喜だった。
体中の神経が剥き出しにされていくような触感。
「あぁ、あん、もう、もう、やだぁ…ん…」
座間はヒカルが先に達してしまわないように、その男根の根元を押さえていた。
ヒカルはその厚みのある壮年の男の体を、肩に抱え上げられた足で、
挟み込むようにしている。
腕は、あれほど嫌っていた座間の頭を抱えるようにして自分の方に寄せていた。
しかし、過ぎた快楽は、時には苦痛でさえあるのかもしれない。
「やめて、あ…お願い…もう……ぁんん!ん!んん!」
座間が腰の動きを早めた。
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「あぁ、あぁ、っっ!やだ! 死んじゃう!! 死んじゃうっ!!」
ヒカルは夢中になって叫んでいた。
「いいか?いいか?」
面白そうな座間の言葉に、ヒカルは快楽にあふれ出る涙で頬をしとどに
濡らしながら、黙って首を小さくたてに振る。
あまりに長く続く絶頂状態に、声も出せずに悶絶していたのだ。
座間がヒカルに最後のとどめを刺すために、ヒカルの両足を高く肩の上に持ち上げ、
ヒカルの体を二つ折りにするようにしてから、
一物をギリギリまで引き抜くと、いっきに最奥まで押し込んだ。
ヒカルは、そのあまりに強烈な一撃に声も上げられす、体をつま先まで突っ張らせる。
座間はそのヒカルの体を力づくで床に押さえつけ、はげしく抜き差しする。
ヒカルの開かれたままの口からは唾液がこぼれ落ちて、涙とともに、頬を伝い、
首すじまでぐっしょりとぬらした。
「ゆくぞ、ゆくぞ」
座間の声が荒くかすれる。
座間の下腹部が大きく波打った。ヒカルの根元を戒めていた手を放す。
ヒカルが声にならない悲鳴をあげて達した。ヒカル自身の先端からドクンドクンと
白い粘液が吐き出される。
すべてを吐きだした後、ヒカルの体が、カクンと弛緩した
座間は、その気を失ったヒカルの、苦しげとも恍惚とも取れる表情をも
たっぷりと堪能すると、意識を飛ばしてもまだ余韻に奮え、やわやわと
締めつけてくるヒカルの中から自分自身を抜き取った。
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遠く囀る秋鳴きのホオジロの声に、ヒカルは目を覚ました。
目を覚ました時、ヒカルは自分が今、どこにいるのかわからなかった。
ホオジロの声に、キチキチとモズの高鳴きが混ざる。
そういえば、もうそろそろ、庭の木に毎年巣を掛けているモズの夫婦が山へと
帰っていってしまう頃だ。来年も来てくれるだろうか?
ぼんやりとそんなことを考える。
(あぁ、もう起きて剣の鍛練しないと、またじいちゃんの雷が落ちるよ)
なんだか頭が痛い。
起き上がろうとして、体の重さに気付いた。体を支えた腕の力が萎えて、
もう一度床に寝転がってしまう。
天井を見上げて、初めてそこが自分の家ではないことに気付いた。
近衛の家のそれより、遥かに高く見事につくられている天井。
(あれ?ここ何処だっけ?)
頭を整理するために腕を持ち上げて目にかかる前髪をかき上げようとして、
視界に入ったその腕に点々と残る、赤い花びらのような吸われた痕。
座間達の支配の痕を目の当たりにして、急激に、今自分がどこにいるか、
昨夜何があったのか思い出した。
そして、自分が座間達を前に、欲望に取りつかれるまま、何を口走り、どんな
痴態を演じたかも、全部。
昨夜の熱が、まだ体の奥底に残って、じんじんと不満を訴えている。
それだけで、自分が盛られた薬がどれだけ強烈な効き目のものだったか判る。
今だって、自分は誰かにこの肌に触れられたら、喜んで身を投げ出してしまいそうだ。
やられた、と思った。
「畜生……!」
ヒカルが、気を取り直し、なんとかもう一度起き上がろうと、体を返した時、
御簾が上がって、いつもの侍女が入ってきた。それと同時にふわりと部屋の中に漂う
さわやかな菊の香り。
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侍女の肩越しに庭を見ると、庭一杯に菊の花が並べられ、それぞれの花に
かぶせてあった朝露を含んだ綿帽子を、女房達が次々と取っていっている。
この日の朝に、菊の花びらに降りた露を飲むと、不老長寿を得るという言い習わしがあるからだ。
そう、今日は九月九日。菊の節句――内裏では帝を迎えて菊の花を愛でる『重陽の節会』が
行われるのだ。
ヒカル付きの侍女が、まだ起き上がることのできないヒカルに近づいて、手にしていた
着物を差し出した。
それは、普段ヒカルが身に付けている狩衣ではなく、縹色した検非違使志の位袍。
「お着替えを」
ヒカルは、思わず侍女の顔を見返した。
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