光明 13


(13)
電車の座席に座り振動に揺られながらアキラは寺院で会った僧侶の言葉を思い出していた。
『この世に偶然はなく その人間に必要だからこそ必然に物事は起こる』という言葉が
アキラの心に印象深く残った。
では進藤ヒカルとは偶然でなく自分にとって避ける事の出来ない出会いだったのだろうか。
正直 アキラには分からなかった。
碁会所で対局する時、ヒカルは時々 光を放つような強力な一手を打つ事がある。
その一手ごとに自分が確実に より高みへと引き上げられる感覚を体感する事が度々あった。
またアキラの悩みに対してヒカルは難なく明確な助言をしてくれる大事な存在でもある。
自分の人生にヒカルの存在は欠かす事が出来ないとアキラは強く自覚している。
ヒカルに対する評価を考えている最中、アキラの胸に熱く込み上げてくる感情が瞬間貫いた。
ヒカルに肩をつかまれた時、アキラは その同じ感情に一瞬支配されてヒカルにキスをした。
なぜそんな事をしたのかアキラ自身 分からなかった。
アキラは自分にとってヒカルは生涯のライバルであり それ以上の感情は持ち合わせていないつもりだった。
それに自分は、一般男性と変わらなく女性を性の対象としていると思っている。
努力して築き上げた自分を今さら変えるつもりは毛頭もない。
ヒカルにキスをした時の感情を認めてしまったら、たちまち身も心もそれに支配されてしまい、
二度と後戻り出来ないような予感がした。

常識や理性で割り切れないその感情が恋である事をアキラは まだ気付いていない。

自分の心が全く分からなってきてイライラし、落ち着こうとするが なす術もなく
アキラは大きく息を吸い込みゆっくりと吐いた。
電車の暖房が冷え切った体に心地よく、やがて軽い眠気が訪れた。
体が欲するその要求にアキラは素直に従い身を委ねた。体だけでも休めたいと思った。
やがてアキラは小さな寝息を たて始めた。

除夜の鐘が深夜に響き渡る中、また新たに雪が降り始めた。
それは まるで人の心に宿る煩悩の炎を鎮めるかのようにも見える。
時は人それぞれの思惑を一切顧みる事なく、刻一刻と新しい年へと走り出した。
《完》



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