無題 第2部 13
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それから、何事もなかったかのような日々が戻ってきた。
次の手合いにはちゃんと行く事ができたし、いつも通りに対局できた。(当然、勝った。)
芦原さんが連絡したのか、母が帰ってきた。具合が悪くなったのなら、なぜすぐに連絡しなかった
のかと責められた。思いつかなかったんだ、と誤魔化したけど。
(父の一番弟子に強姦されて、そのショックで寝込みました、なんて言えるはずがない。)
それから、母を説得して、ボクはアパートを借りる事にした。
みんながいる筈の家に独りでいるのは余計に寂しいから、と言って。もしまた今度みたいに病気
になったらすぐ連絡するし、おとうさんやおかあさんが日本に帰ってきた時は、その時には家に戻る
から、とも、言った。母は最初は随分反対したけれど、結局父の「アキラももう一人前なんだから」
の鶴の一声で決まった。
そうして、母は父のもとへ戻り、ボクは一人暮らしを始めた。
イベントはできるだけ断った。大手合いの日は棋院に行き、それ以外の日は学校へ行く。
時には父の門下生の研究会に行く。ただ、来る予定の人は事前に確認し、あの人とは顔を会わせ
ないようにした。始めの頃は父の碁会所もボクは避けていたけれど、芦原さんに連れていかれて、
最近はあの人もそこには来ていなかったのだと聞いた。
ボクは少しほっとした。
そんな風に、何事もない日々を過ごして、ゆっくりと、時間が経てば、忘れられると思ってた。
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