アキラとヒカル−湯煙旅情編− 13
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だが、ガキの不器用なボタンの掛け違えとはいえ一度は無理矢理覚ました熱情だった。このままやり過ごせば、また何事もなかったように、日常が戻ってくる、・・・そこまで考えて加賀はふっと自嘲した。
・・・らしくねえな。
泣く子も黙る加賀鉄男が塔矢アキラひとりに、振り回されている。
・・・あいつはオレのこと覚えてもいねーのに。
「お先。」
乱れた感情に蓋をして、加賀が浴場をあとにすると、アキラが慌てて追いかけてきた。
「ボクも一緒に行きます。」
「い、一緒って・・・。」
「ボク達の部屋、布団二組しか用意されてなくて・・・、布団敷きの方がご老人だったので、進藤達を抱えてもらった上、余分の布団持ってきていただくのが忍びなくて・・・だからそちらで一緒に休ませてください。」
アキラは少し息を切らしながらそこまで言い終えると、体の雫をあわただしくタオルで拭った。
・・・まずいだろ、それは・・・加賀は狼狽した。
おまえとひとつ部屋で寝ろって言うんかよ・・・。
だが、それと同時に、突然、蓋をしかけた熱情が再び堰を切ったように溢れ出した。アキラとの思い出の続きを見せられているような錯覚に、甘美な感情が湧き上がるのを抑えられない。
アキラは浴衣を羽織ると、器用な手つきで浴衣の帯を結んだ。
「上手くなったもんだな。」
えっ、というようにアキラは加賀を見上げた。優しげに自分を見つめる瞳に出会う。
「ガキん頃は不器用でちゃんと結べなくて、半べそ掻いてたのによ。」
アキラは、しばらく不思議そうに加賀を見つめていた。
だが、あっ、と呟くと、顔色が変わり、小さく震えた。そして、きびすを返しさっさと脱衣所を出ようとする。
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