平安幻想秘聞録・第二章 13
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「まだどの女御さまにも男の御子がいないため、正室となる方は決まっ
ていないけれど。お三人とも名家の姫君だよ」
「名家?」
「えぇ、お一人は座間長房さまの姪御、もうお一人は芹澤基直さまのご
息女、そしてもう一方は、藤原、藤原行洋さまのお血筋」
座間、芹澤、藤原。いずれも劣らずの名門の家柄だ。帝に男君が生ま
れても、その御子が皇太子として立つのはもっと先。それまでは余程の
ことがない限り、今の東宮が時の権力に一番近い位置にいる。いつでも
帝とその周りには、権力に縋ろうとする輩がひしめきあっている。四人
めの后がねを用意して、虎視眈々と狙っている者もいるのだ。
「東宮、帝の弟君とは言っても、婚家の権力・財力が物を言うのは他の
貴族と何の変わりもありません。幻を相手にするくらいなら、うちの娘
のところに通ってくれと、三人のお舅殿にせっつかれるのがオチと言う
ものですよ」
軽やかに微笑む佐為に、半分以上意味が分からないまでも、そういう
もんなのかと、ヒカルは納得してしまった。とりあえず、気にせず放っ
ておけってことだよな。笑顔の戻ったヒカルに、佐為がでは一局打ちま
しょうかと声をかけた。
嫌な、予感がする・・・。
ほっとした表情を見せたヒカルに、明は自分が感じている不安を口に
することができなかった。
第二章・終
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