ピングー 13


(13)
「ひっ、あっ、ああっん! あぁっ! やぁだぁっ!」
先ほどの指責めで発見した、ヒカルの性感スポットを何度も強く突く。
ヒカルの口から上がった声は、拒否の言葉だったが、その響きは、彼自身の元々の
舌ったらずな口調とあいまって、緒方の背筋がぞくぞくするほど、蠱惑的だった。
「やだっ! 先生っっ! コワイッ! コワイッ! あ、あああぁぁうっ……!」
男のドロドロとした欲情の液が体内に放たれて、ヒカルの腕に幽かな痙攣の波が走った。
より強く握りしめられた灰色のシーツが、その瞬間にキュッと小さく絹ずれの音をさせた。


「しまったな」
朝。緒方が一番に考えたのは、己の身の保身だった。
閉められたカーテンの隙間からもれる朝日にチラチラと肌を照らされ、そこに横
たわる進藤ヒカル。
酔いの冷めた頭で昨夜の断片的にしか残っていない昨夜の出来事をつなぎあわせ、
的確な答えを導き出す。
進藤ヒカルの柔らかそうに乱れた髪。涙に濡れた跡を残すそのなめらかな頬。
さて、この子供をどう言いくるめて、昨夜の事を世間から隠ぺいしたものか。
緒方は更かしていた煙草を灰皿に置くと、水槽の方へ歩を寄せる。
水槽には水合わせのために浮かべたままのコリドラスの袋がプカプカと浮いていた。
それを破って、水槽の中に買ったばかりのコリドラスが泳いで身を沈めるのを見守っ
てから、緒方はもう一度、ベッドの傍らに立った。
「俺は男の趣味はなかったんだんが」
吸いかけの煙草を灰皿から取る。
「まぁ、なんとかなるだろう」
しょせん相手は子供だ。いくらでもごまかしようはある。
反省したような顔をして泣き落とすか、あるいは口先だけの愛を騙って丸め込むか。
丸め込んで、夢を見させて、飽きたら切り捨てて、身をもって「大人のつきあい」って
やつを世界を学ばせてやるのも一興だ。
(ふん。面白いかもしれんな)
緒方は吐き出した白い煙が部屋に広がって行くのを見ながら、思索にふけった。



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