落日 13
(13)
「おまえ……どういう事だよ、コレ…!」
先に口を開く事ができたのは和谷の方だった。
「どういうって、何が?」
言っている意味がわからない、というように、ヒカルは首を傾げる。
「おまえ、何、呆けてるんだよ。」
カッとして、和谷はヒカルに掴みかかろうとした。
「おいっ!」
「やめろっ!」
その手を伊角がまた押しとどめる。
「乱暴なことはするな。」
止めに入った伊角を和谷はぎろりと睨み付けた。
「てめぇには関係ねぇ。」
ぎりぎりと火花が散るほどに睨み合う二人の後ろで、その緊張を断ち切るように、くしゅん、と小さく
くしゃみする音が聞こえた。
一瞬、出遅れた。
ヒカルの身体は伊角に抱き寄せられた。
「出て行け…!」
「…何だって?」
何の権利があって、そんな事を言う、そう言い返してやろうと思ったのに、抱き寄せられたまま伊角
の胸に身体を預けているヒカルに、猛烈な怒りを感じた。
「おい、何とか言えよ、ヒカルッ!」
が、伸ばしたその手を、伊角が振り払った。
「黙れ。」
鈍く光る目に睨み据えられて、一瞬たじろぐ。
「声を荒げるな。彼が怯えているじゃないか。」
ヒカルの華奢な肩を抱きしめたまま、伊角は和谷を睨み上げて、言った。
「彼にそんな暴力をふるうような人間を、近寄らせるわけには行かない。」
そうして腕の中の少年に、柔らかな声で言い聞かせる。
「もう、心配しなくていいから。おまえは俺が守ってやる。」
その光景に、和谷は怒りに目が眩みそうになる。
「出て行け…!」
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