月明星稀 13


(13)
辺りが夕闇につつまれてきたのを感じて、ヒカルは立ち上がり、灯りをともす。
庭から虫の声が聞こえる。夕風の涼しさに誘われたように、まだ薄明かりの残る外に出ると、西の空には
一番星がまたたいていた。
以前にもこうしてここに座って、今日と同じように、あの時は冬枯れた庭を眺めていた事があった。
夜空に瞬く星々は美しくて、佐為のいない世も、それでもまた美しいのだと、静かな安らいだ心地で星を
見上げていた。
あの時彼は何と言ったろう。
彼が想い人を語った時の、熱い眼差しが、寂しげな声音が、何だかとても哀しくて、彼が、自分以外の人
をあんなにも切なく語るのが寂しくて、辛くて、それが何かもわからずに俺は泣いていた。

俺は、馬鹿だ。
俺も、あいつも、大馬鹿だ。
どうしてあの時にちゃんと気付かなかったんだろう。
だって俺は淋しいと思った。俺の前で他の人のことなんか言わないで欲しいと思った。俺だけを見ていて
欲しいと思った。その事の意味に、どうして気付かなかったんだろう。

東の空を仰いでも、まだ月は見えない。
今日は十六夜。月が昇るのはもう少し後だろう。屋敷の主はまだ帰らない。けれど、月が昇る頃にはきっと
帰ってくると、ヒカルは何の根拠もなく信じていた。

遠くで、ギイィと、門の軋む音がした。
どくん、と、心臓が、大きく脈打ったのを感じた。
草を踏み分けて、彼がここに戻ってくるのを感じていた。
たまらずにヒカルは立ち上がり、廊下を走り、彼の元へと急いだ。



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