うたかた 13


(13)

 突然の言葉に、ヒカルがきょとんとした顔で加賀を見つめる。
 その視線が、加賀には痛かった。

「…なんで?」
「………。」
「どうしてだよ、加賀。オレ何か悪いこと言った?」
 戸惑ったような声。
 ヒカルと目を合わせることが出来ない。
「加賀ってば…」
「………。」
「…黙っててもわかんないよ。」
 加賀もわからなかった。何をどう言えばいいのか。
 だんまりを決め込む加賀に頭に来たのか、ヒカルが枕を投げつけた。
「もういいっ!!加賀はオレのこと嫌いなんだろ!!言われなくったって出てってやるよ!もう会わないっ!!!」
(────嫌いじゃないから苦しんだろが、バカ進藤。)
 加賀が、肩に命中して床に落ちた枕を拾い上げるのと同時に、ヒカルは起き上がって服を着始めた。
「おいっ!熱が下がってからって言っただろ!」
 思わずヒカルの腕を掴むと、すごい勢いで振りはらわれた。
 俯いたヒカルの表情は、ひどく辛そうで────絶望に満ちていた。

「しんど…」
「なんでだよ……。」
「…え?」
「なんでみんなオレを独りにするんだよ…っ‥」

 佐為も、加賀も

「………ヤダ……」

 もう独りは嫌だ

「ヤダよ…かが…っ」

 すがるように、加賀の背に腕をまわした。
 加賀がおそるおそるオレを抱きしめるまでに、数秒ためらったのがわかった。

 ────ふいに、視界が歪む。


 泣くもんか
 薄情な加賀のために流す涙なんて、一滴もないんだから。

 でも、背中をぽんぽんってする加賀の手が優しくて。
 『会わない』って言ったのに、優しくて、それが余計に哀しくて。

 泣きたくなんかないのに、涙はしつこく出ようとしていた。




 雨はまだ止まない。



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