夜風にのせて 〜惜別〜 13
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十三
「…彼は、婚約者です。明日式を挙げるんです」
ひかるは泣くのを止めて言った。大切なことは自分の口で明に伝えたかったからだ。
明は愕然としてそれを聞く。
「結婚したら彼の実家に行くことが決まっていて…。もう明さんと会うことはできなくな
るので、今日はお別れを言いにきました」
「うそだ! ひかるさん、ふざけないでください」
明はひかるに詰め寄った。だが男性によって阻まれてしまう。
「すでに決まっていたことです。あきらめてください」
男性は冷たく言い放った。だがそれでひかるへの想いを簡単にたつことなどできなかった。
明はひかると話そうと試みる。けれどもひかるによってその想いはたちきられた。
「さようなら、明さん。今まで楽しかった」
ひかるはそう言うと男性と共に車に乗りこんだ。
悄愴とする明を見捨て、車は無残にも走り出した。
明はその車を必死に追いかける。だが車はすぐに姿を消してしまった。
暗闇に明の叫び声が鳴り響いた。
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