断点 13 - 14


(13)
塔矢の視線にせかされるように、でもゆっくりとしか動けなくて、のろのろと下着とズボンをはいた。
靴下が片一方だけ脱げてたみたいで、それも拾って、はいた。
身体に力が入らなくて、あちこちがズキズキと痛くて、立ち上がるのも辛かったけど、やっとの思
いで服を着て立ち上がったオレに、塔矢は無情に声をかけた。
「ゴミ箱はそこ。」
言われた通りに、オレは自分の出したゴミをそこに片付ける。
そうすると、オレが転がっていたあたりが、血や他のもので畳が汚れていて、それを見てオレは慌
ててそこをティッシュで拭いた。拭いたくらいでキレイにはならなかったけど、それ以上どうしようも
なくて、オレは困ったように塔矢を見た。
「後始末をしたら帰れと、言わなかったか?」
塔矢の冷たい言葉にオレは今更のように目を見開いてあいつを見て、でも、何も言えなくて、何も
できなくて、痛む身体をこらえながら、転がってたリュックを拾い上げて塔矢に背を向けた。
そうして、よろよろとゆっくり歩いて、部屋の戸に手をかけたオレの背に向かって、塔矢が言った。
「案内しなくても、玄関がどっちだったかくらいわかってるだろ。」
なんて冷たい声。冷たい言い方。
「さっさとボクの前から消えてくれ。」

オレはよろよろと塔矢の部屋を出て、壁を伝い歩きしながら玄関まで行って、スニーカーを履いた。
俯いたら、涙がみっともなくぼろぼろと落ちてきた。大声で泣き出してしまいたかったけど、必死に
こらえた。やっと靴を履き終わって、振り向いても、塔矢はそこにはいなかった。


(14)
どうやって家に帰ったかもよくわからなかった。
ただ、混乱していた。
家に帰って、風呂に入って、その晩は疲労のままに眠りについた。

身体を起こそうとした時に襲った痛みが、昨日の記憶を引き出した。
―いやだっ!やめて、塔矢…っ!

身体を引き裂く痛み。耐えがたい苦痛。
冷ややかに見下ろす目。嘲るような冷たい笑み。
投げかけられた言葉。
「そんなものは要らないんだよ、進藤。」
どうして。
どうしてあんな事になったんだ。何があって、一体。
混乱して訳がわからなかった。

ただ、体中が痛くて、悔しくて、悲しくて、オレは泣いた。

あの時、最初にあの家に着いたとき、玄関で出迎えてくれた、オレを見て優しく笑ってくれたのは、
あれは一体誰だったんだろう。
そして、オレを強引に犯して、冷たい声で帰れと言い放った、あれは一体誰だったんだろう。
本当に塔矢だったのか?
どっちも、本当に塔矢だったのか?
塔矢に似た別人じゃなかったのか?

体に残る痛みさえなければ、全てを夢だった事に、怖い夢を見た、それだけの事にできたのに。
昨日の事が現実だったなんて、思いたくなかった。



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