傘 13 - 14
(13)
「前、傘に入れたもらったお礼だよ」
さりげなく言えたか、とても不安だった。
「おいおい、あれから何ヶ月たってんだよ」
進藤は笑いながら包装紙を破り、傘を取り出した。
凉しやかな水色が、この季節には少し浮いているのが残念だった。
でも、これは僕の自己満足だから。
「塔矢……」
進藤は、音を立てて傘を開いた。
―――パン!
乾いている傘は、高い破裂音を響かせる。
進藤は室内だというのに、開いた傘をさして見せた。
「傘ってさ…、千年たっても形かわんねえのな」
進藤がキュッと唇を引き結ぶ。
それは、涙を堪えているように、僕の目に映った。
「進藤?」
訝しげな僕の呼びかけに、進藤は笑顔を返してくれた。
(14)
「明後日、俺の誕生日なんだ」
僕は初めて知ったような顔を作る。
「一緒に遊びにいかねえ?」
進藤がくるりと傘を回す。
「どこに?」
青い水が、くるりと流れる。
「水族館」
僕はいまにも溺れそうな気分で、大きく息を吸った。
「なぜ?―――」
「塔矢に見せたい魚があるんだ」
「魚?」
「熱帯魚、ルリイロスズメダイっていって綺麗な青い魚なんだ」
「なぜ、僕に……?」
「おまえに似てるから」
そういって、進藤はふっと視線を外した。
どこか遠い瞳で、傘を見上げている。
「前から一度、塔矢と行きたいと思ってたんだ」
それ以上、言葉は要らなかった。
青いビニール傘の下で、進藤も同じことを感じていたと、僕は思った。
それは確信だった。
―――――水色の傘を選んだのは、大切な思い出があるからだ。
進藤の誕生日を二日後に控えた夕暮れ、それは僕たちの大切な思い出になった。
〜終〜
|