Trick or Treat! 13 - 14


(13)
通りすがりの花屋に、見たことのあるオレンジ色の物体がデンと据えられてあった。
「・・・・・・」
立ち止まって眺めていると、店の奥から学生のような若い女の店員がニコニコと出てくる。
仕方なく緒方は呟いた。
「・・・最近は、花屋でもカボチャを売るのか」
「今日はハロウィンですから。大きいのは店の飾り用ですけど、小さいのを
ご自宅用に買っていかれるお客様は結構多いですね」
「小さいの?」
「こちらになります」
店員が体をずらした方向に、緒方の手のひらより一回り小さいくらいの
オレンジ色のカボチャが、大きいカボチャと同じように目と口をくり抜かれて笑っていた。

金色と薄桃色の夕映えが次第に菫色がかった青に染まり始めると、もう黄昏時だ。
逢魔が刻だ。
お化けや魔女が街中を練り歩き、甘い菓子の匂いに誘われて家々の扉を叩く時間だ。
花屋の包みを抱えコートの襟を立てて家路を急ぐ緒方の頭上で、
暮れ時の鮮やかな青い空を背景にした黒い街路樹のシルエットから、
何か黒い鳥の影がバサバサッと飛び出していった。


(14)
最近は自分で鍵を開ける日と、開けないで済む日とがある。
マンションのエントランスで部屋番号を押す時にふっと思いついて、
包みから取り出した顔つきカボチャをモニターの前に押し付けた。
「はい」とモニターの向こうに現れた相手が、息を呑む音が聞こえる。
その反応に満足しながら、緒方はカボチャをどけ自分の顔を見せた。
「オレだ」
「・・・開けますよ」
一枚板と厚いガラスを組み合わせた、エントランスの自動扉が開く。
エレベーターを降りると、エプロンを着けたアキラが中からドアを開けて待っていた。

「お帰りなさい。あまり変なことをしないでくださいね」
「ただいま。・・・お土産だ」
両手を差し出させて載せてやると、アキラは不思議そうに首を傾げた。
「・・・カボチャ?」
「ハロウィンだ」
「そうですけど。緒方さんの部屋って、クリスマスもお正月も何か飾られていたのを
見たことがないから」
「昔を思い出したのさ」
「ふうん・・・?ボクが、飾っていいですか」
「ああ」
片手でネクタイを解きながら、着替えるために緒方は寝室へと向かった。



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