金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 13 - 14


(13)
 ヒカルが下を見ると、確かにほんの僅かだが、スカートの裾から下着が見えていた。
「あー…」
ヒカルはスカートを持ち上げて、「イケてねえ〜」と頭を掻いた。その頭に、何かがこつんと
ぶつかった。
「それ使えよ。」
和谷が安全ピンを投げたのだ。
「それでパンツの裾折って、止めたらいい…」
「おし!」
 可愛く変身に再挑戦。しかし、スカートを捲り上げ、トランクスを折るその姿は可憐さとか
色っぽさからはほど遠い。
「色っぽくネエ…」
と言う和谷の愚痴をヒカルはワザと無視をした。

 「どうだ?」
トランクスを完全に隠して、ヒカルは再度和谷に訊ねた。膝上丈のニーソックスとミニスカートの
間にある物は白く眩しい太腿だけだ。
「……うん…スゲー可愛い…女の子に見える…」
和谷はうっとりと呟いた。
「ホント?おかしくネエ?」
「全然!」
力一杯頷いた和谷に、ヒカルは「エヘへ」と照れたように笑った。


(14)
 「じゃあ、外歩いても誰も気付かねえかな?」
「絶対大丈夫。女の子にしか見えねえモン。」
力強い和谷の言葉にヒカルは自信を持った。
「ちょっと、出てくる…」
と、ヒカルは玄関へと向かう。
「おー行ってこい!」
和谷も元気よく送り出した。


 伊角達が、頭にバニーの耳をつけたまま酔いつぶれて眠っている和谷と脱ぎ捨てられた
ヒカルの服を発見したのはそれからかなり後のことだった。

―――――――――――と、こんな長い長いいきさつを、ヒカルはかなり端折ってアキラに説明した。
 アキラに理解できたのは、研究会があったこと、宴会でお酒を飲んだこと、その勢いで女装を
したことだけだった。
………………だけど、やっと、わかったよ。
先程からの彼の怪しい言動の数々が…………。
「……要するにキミ…酔っているんだね?」
「酔ってねえモン…」
酔っぱらいの「酔ってない」ほど当てにならない物はない。それなのに、ヒカルはアキラに
顔を近づけて「酔ってない」と何度も主張した。
 間近に迫ったヒカルの顔はほんのり桜色に色付いて、目元はトロンと潤んでいる。柔らかそうな
髪からはシャンプーの香に混じって、微かにビールの匂いがした。



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