黎明 13 - 14


(13)
耐え切れずに、アキラはヒカルの身体をかき抱いた。この抱擁は彼の身体の震えを鎮めるため
だと言い訳を浮かべながら、アキラはヒカルの細い身体を抱きしめた。我が身の温もりが少しで
も彼に伝わるようにと、抱きしめる腕に力を込めた。寒い、と漏らす言葉を裏切るような熱い涙が、
その抱擁に応えるように、アキラの胸を濡らした。
抱きしめた腕の中で、ヒカルの唇がアキラの首筋から胸元へと這い、手が衣の下を這い、下半
身をさぐり始める。
その愛撫に、ヒカルの求めているものは単に温かい身体に過ぎず、賀茂明という名の一個の人
間ではない事をまたもや思い知らされて、知っていたはずの事実にそれでもアキラは絶望する。
その絶望と怒りに、アキラの身体が震えた。
「やめろ…」
アキラの身体を―身体だけを―求めるヒカルの愛撫を避け、彼の身体を引き剥がして、震える
声でアキラは言った。
「寒いというのなら、抱いてやる。暖めるだけなら、いくらだって抱きしめてやる。
でも、それだけだ。それ以上はなしだ。」
「それじゃ足んねぇんだよ!そんなんで、あったまったりできねぇよ!もっと…」
そして縋るような目で見上げて、アキラに泣きついた。
「寒いんだよ…!なんとかしてくれよ……!」
だが、縋りつくヒカルの視線から逃れるように目を逸らせたアキラに、ヒカルは怒りをぶつけた。
「それもできないんなら、俺を元の場所に戻せよ!!あっちのほうがよっぽどましだ。
奴らは、少なくともおまえみたいに尻込みしたりしないで、俺を暖めてくれたよ!
それがおまえに出来ないんなら、俺をあそこに帰せよ!!」


(14)
ヒカルの言葉を受けて、アキラの双眸が黒く燃え上がる。一瞬、その炎にヒカルはたじろいだ。
燃えるような目でヒカルを真っ直ぐに見据えたまま、アキラはヒカルに乱された着衣を乱暴に脱
ぎ捨てた。半身を起こし両手を後ろについて、怯えるようにそのまま後ずさろうとしたヒカルの肩
を捕らえ、ヒカルの身体を覆う布を剥ぎ取っていく。
そうして互いに一糸纏わぬ姿になって、アキラはヒカルの身体を抱きしめた。
アキラの身体は熱かった。体温以上に、熱く滾る激情が、火傷しそうに熱くヒカルの身体を包み
込んだ。そして次第に、彼の身体の中心で激しくその存在を主張する熱い陽物が力強くヒカル
の下腹部を刺激し始めるのを、ヒカルは感じた。
ヒカルはそれが欲しかった。欲しくて欲しくて、堪らなかった。その熱い楔を自分の中に打ち込ん
で欲しかった。外からだけでなく、内からも、自分を暖めて欲しかった。冷え切ってしまった身体
を内部から熱い熱で燃え立たせて欲しかった。
「…なあ、おまえ、」
「アキラだ。」
悲痛な響きを抑えきれずにもう一度、アキラが自分の名を告げる。
「アキラ、」
強い力で抱きしめられたまま、かすれるような声でヒカルがその名を呼んだ。
「おまえが、欲しい…」
動けるものならば、自分から彼の熱い塊を導いて内部に納めたかった。それが駄目ならせめて
その熱い塊を握り締めて、その熱を感じたかった。けれどヒカルの身体を拘束するように強く抱き
しめるアキラの腕の力がそれを許さず、ヒカルは求めているものがそこに確かにあるのを感じな
がらも、決してそれを得ることは許されなかった。だから、懇願するようにアキラに訴えた。
「おまえが、欲しいんだ。おまえの熱いそれを俺の中にくれよ…!」



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