隙間 13 - 14
(13)
緒方が自分の事を好きではない事など、ヒカルが一番知っていた。
だって緒方は一度だってヒカルにキスしてくれた事は無かった。
ただ体を繋ぐだけ…SEXだけを教えてくれた人だった。
ヒカルも緒方が好きで寝た訳ではない、ただ寂しかったから、佐為がいない隙間を
誰かで埋めて欲しかったに過ぎない。一人になるのが怖かったのだ。
思春期をずっと他者と一緒に過ごしてきたヒカルは、孤独に極端に弱くなっていた。
一人で眠っていた、佐為と出会う以前の自分が思い出せない、誰かと一緒にいない
自分など、考えられなかった。誰でも良い、そばにいて欲しい。
そして寂しさを紛らわす方法を教えてくれたのが緒方だった。それだけなのだ。
SEXするだけの関係…充分に分かっているはずなのに、「好き」と言う単語に
大きく動揺する自分をヒカルは自覚した。そして分かってしまった。
―――オレ、誰かに好きって言って欲しかっただけなんだ
誰かに愛して欲しかった、佐為がそうしてくれたように。身代わりが欲しかったのだ。
体を繋ぐより、言葉だけでこんなに嬉しくなる自分がいる。その認識はヒカルを驚愕させた。
(14)
緒方に対して失礼な動機で近付いた事をヒカルは自覚している。
利用しているのだ、佐為の抜けた隙間を埋めるために。
そして、緒方はヒカルが気付くよりもっとずっと前からそれを知っていた。
ヒカルがただ単に誰かのぬくもりを恋しがっていた事など、お見通しだった。
一人寝を怖がる幼児のようなものだ…だからこそ、そんな頼りなさげな少年を
いじらしく思うことも緒方にはあるのだった。
動きを再開しながら、熱い吐息混じりの声でヒカルに囁く。
「フッ…嘘でもいいのか?」
「あ、あっ…ン、いい…いいからぁ…おね、が…おがたさ…ん、アッ…んぅ」
ヒカルも、そして緒方も限界に近かった。一層激しく腰を使うと、ヒカルは悲鳴を上げて
頭を振った。前立腺を更に攻め立てられて、前後不覚のような感覚に陥った。
緒方も息を荒げながら昇りつめようとより集中した動きになる。
「アッ、あんっ…やぁ、イク、イっちゃうよぉ…おがたさぁ…」
「”好きだ”」
「すっ………アッ!あ…」
「”大好き”だよ…進藤」
目も眩むような快感と、欲しかった言葉…。
「ヒッ…ああっ、アッ―――……!!」
甲高い嬌声と共にヒカルは今日何度目かの絶頂を迎えた。
瞬間のアヌスの強い締め付けで、緒方もヒカルの奥に飛沫を放つ。
「ハッ……、アァ、……ン……アアッ……、ッ…」
緒方の断続的な射精に合わせて弱弱しく反応するヒカル。
目は虚ろで、殆ど焦点を結んでいなかった。
緒方がゆっくりとペニスを引き抜くと、もうすでにヒカルは意識を失っていた。
後始末をしてやって、ベッドに運んで寝かせてやる。
明るい前髪を梳いてやると額が覗いて、一層少年を幼く見せた。
緒方は自分が少年の孤独を埋めるものではないと分かっていた。
そのつもりもない。だがこんな行為を教えてしまった負い目もある、
せめて”次の人”をヒカルが見つけるまで、付き合ってやるのも悪くない。
ヒカルに布団をかけてやり、その額にキスをひとつしてやると、
緒方はシャワーを浴びるべく、風呂場へと足を向けた。 <終>
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