ほしいまま-欲儘- 13 - 14


(13)
塔矢の熱が、更に腹の奥の方まで侵入してくる。
ああ、熱い。熱いよ塔矢。
お前がオレん中にいるよ。
中から溶ける。溶けちまう。
突然塔矢が押さえていたオレの手を離した。
その手がオレの背中に回り、強く抱きしめられた。
あそこだけじゃない、塔矢の体も燃えるように熱い。
中からも外からも塔矢の熱に侵食されて、頭がおかしくなりそうだ。
溶かされて自分がどこかにいなくなる。
いや、いなくなるんじゃない。オレは塔矢に、塔矢はオレになるんだ。
この時だけは。
オレも激しく体をゆさぶり続ける塔矢の頭に腕を回してきつく抱きしめた。
臨界点を超えた塔矢の熱が、溶岩みたいな熱い奔流になって、
オレの中に放たれたのがわかった。
そして、オレも、ドロドロに溶けたオレ自身の中身を外に向けて放出した。


(14)


「あーあ。またやっちゃったなぁ」
「・・・・・・・」
自分達はいつもそうだ。
自分達同志の手合はもちろん、他人の…とくに高段者の緊迫した手合を見ると、
むやみと興奮してしまい、歯止めが効かなくなる。
ちなみに昨日見ていたのは天元戦の一局だった。
碁のイベントで、地方のホテルに泊まっていた二人は、ロビーのテレビで
衛星中継されるそのようすを食い入るようにみてしまった。
スリリングな、いい一局だった。
で、あの始末だ。

自分達もあんな碁が打ちたい。
あんな風に他のことなんかなにもかも忘れる碁が打ちたい。
そう思うと体が熱くなる。
二人揃っているときはなおさらだ。
その気になれば、そういう棋譜を生み出せる相手が近くにいるのだ。
異様に興奮する。
相手と対局したくなる。
相手が欲しくなる。
自分以外は見るなといいたくなる。
そして、生まれるのは、恋でも愛でもない、純粋な肉欲だ。

「まあ、とにかく、仲居さんが来るまでになんとかしよう」
ヒカルの割に前向きな言葉にアキラは頷いて、二人の放ったものでドロドロの布団を
ティッシュと手ぬぐいで、汚れが目立たないようにするために拭き始めた。

(おわりーー)



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